へら鮒情報局

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「今回は、実際に大会に参加してもらって、リアルでガチなレポートにしましょう。だから成績もそのまま載せましょう」
「大会というタフコンディションの中で、どんな成績だったとしてもそれなりの理由があるはずだから、そのあたりの原因究明をしていくというのが、読者が求めていることなんじゃないですか?」
へら鮒情報局制作チーム内では、このような勝手極まる企画内容で固まりつつあった。
参加する大会は、「BASICカップへら in 甲南へらの池」(8月18日開催)。白羽の矢が立ったのは中京の美原盛男である。なおかつ、意地悪にも美原には、大会出場を兼ねて、ホームページ内の取材をしますのでよろしく、とだけしか伝えていなかった。
大会当日早朝5時、本部は選手の到着を待つ準備を整えていた。

写真からもお分かりいただけるよう、朝5時でこの日差しが照りつける酷暑の予兆に、VARIVAS号のロゴも一段と映えている。

美原がやってきた。普段通りの雰囲気で周囲に挨拶するその姿は、驚くほどリラックスしているように見える。
「美原さん、成績もガチで発表しますよ」
「あ、そうですか。全然いいですよ。7尺チョウチン両ダンゴでいいですか」
別に意に介さない、あっけらかんとした応えが返ってきた。甲南は久しぶりで、もちろん試釣りもしていない。ぶっつけ本番で大会に出場するだけ。
(ほんと、大丈夫だろうか)逆に我々サイドが顔を見合わす始末だった。

7時競技開始。午前中は11時までで、途中30分の休憩をはさみ、14時半までの、実質7時間の総重量で優劣を競う。美原は抽選の結果、二号桟橋の事務所向き奥寄りを引き当てた。7尺チョウチン両ダンゴで、おもむろにスタートする。仕掛けは、道糸プロバージョンV ブラウン 0.7号、ハリス 同0.4号 20cm/30cm、鈎 上下グラン鈎5号、ウキボディ5cmパイプトップ(全9節のうち、3節沈み6節出し)というものである。注目のエサ配合は、
*単品爆釣A  ・・・  360cc
*単品爆釣B  ・・・  120cc
* 水     ・・・  120cc
という、いともシンプルなものであった。

美原がウキを見つめる眼に注目していただきたい。

なんとも柔和な眼ではないか。これが競技の世界で生き抜いてきた漢(おとこ)の眼かと首を傾げたくなるほど、優しく奥深い眼に出会ったことは、いまだかつてない。
その表情通り、釣り方もいたってオーソドックスで、ウキは必ずなじみ幅を入れる。入ってツンで釣っていく。

淡々と釣り込み、1時間半経過したところで、ようやくひとフラシ(20枚)目のおかわりである。甲南の出だしとしてはまずまずで、上の下といったところであろうか。ところが、このあたり、実際の時間にすると、9時を過ぎたあたりから、周囲は極端な食い渋り状態となってきた。アタリがあってカラツンだからエサを柔らかくすると、次はもうアタらない。アタリがないから、ボソを出すとサワリだけ増えてエサには飛びつかない。こういった状態の中、竿を長くしたり、トロ巻きセットに切り替える選手が続出である。結論から述べると、ここからが美原の真骨頂であった。スタート時に1時間半かかったひとフラシを、周囲の時合い落ちを尻目にこの1時間足らずで釣ってしまったのだった。
美原のエサ手直しをひと言でいうと、「エサの比重を変える」ということに尽きる。具体的には、ウキがいっぱいまで入って(エサがなじみきって)カラツンになった時は、オールマイティを振りかけてエサを軽くしてやる。逆に、ウキの付け根で受け過ぎる時は、ベーシックを振りかけ、エサに比重をつけてやる。

「オールマイティ」「ベーシック」という二品種の比重の違い(といっても、僅かな違いなのだが)を利用することで、適度な受けを出させ、なじませ、軽くて吸い込みやすいタッチを探っていく。たとえば今、オールマイティをひとつかみ振りかけたとしょう。振りかけてガサガサとかき混ぜるだけで、生麩はそのままご飯にかけたふりかけのように浮いている。エサを小指の先大に丸め、上からハリを差し込んで、チモトだけ押さえる。エサの下部は開いたままで、全体的には円に近い形状のハリ付けである。

「エサをハリに付けるという作業は、非常に重要な行為です。いくらボウルの中で時合いに合ったエサであっても、丸める時にこねたりしては何にもなりません。軽く丸め、その上からハリを差し込み、チモトを押さえるだけだとこねる動作は一切ありませんし、エサの中心にハリがくると思います」
ハリ付けは、各人各様で千差万別。要は、ボウルのエサをどうすればそのままハリに付けられるかどうかだ。同じ配合のエサを使っていても、片方は釣れ、こちらは釣れないというのは、このハリ付けにかかっているといっても過言ではないだろう。そういえば、以前のこの稿の中で、「常に、丁寧に、同じ付け方をします。そうでないと、形状でバラケたのか、エサそのものの質でバラケたのかが分からないですから」という、実に的を射た回答をくれたフィールドテスターがいる。美原も、なるべくエサをいじくらないで、ハリをエサの中心に保つ独自のフォームを編み出しているのだった。
11時、午前の部終了。美原はふたフラシ半の53枚の釣果。上位10傑内だろうとは予測するが、本人はそんなことを気にすることなく、まず昼めし、昼めしと駆け出して行った。

触れずにおこうと思っていたが、この日の甲南も酷暑に見舞われた。それも、連日のことだけに、体の中がふぬけたように芯が通っていなくて、シャンとせず、気だるさを覚える。ヘラブナもおそらくエサを追うどころではないだろう。水が死んだように澱んでいるから、酸欠による食い渋り状態は、午後にピークを迎える。30分の昼休憩で、すぐに再開した。弁当をすばやく食べ、その前に朝イチと同じ配合(単品爆釣A 360cc + 単品爆釣B 120cc + 水 120cc)のエサを作っておいた。スタートはまた基本通り。そこから、オールマイティを足し、ベーシックを加え、あるいは、A、B、水を追い足ししていくことで、自分の時合いを作り出していく。周囲の時合い落ちは顕著で、午前と違い、両ダンゴをやっている人より、トロ巻きセットに切り替えた選手のほうが多いように見えるほどだ。
美原の横に、たまたま弟子格のH君がいた。若手ホープの一人なのだが、今日は釣りが伸びないで苦戦を強いられている。
「ほら、今のウキの動きはエサが粘っている証拠でしょう」
「よしよし、徐々にいい動きになってきたね」
もちろん、自分のウキを見ながらも、H君のウキにも目をやってアドバイスを送っている。
美原は饒舌ではない。率先して頭に立ち、鞭と飴と指揮棒を振るタイプでもない。ただ、自分が分かる範囲のことを、自分の言葉で説明していく。若手には、上からでも表からでもなく、下から裏から支えていく。
午後からは、時間あたり12〜15枚の釣果で推移していく。単品爆釣A・B、オールマイティ、ベーシックという四種類のエサを左脇に置き、常に比重の調整をし、変化する状況に対応していく。

エサが入ってのカラツンには比重を軽く、受けが長いと重く、エサに経時変化を感じたら作り替え、と、特に難しいことは何もやっていないが、簡単なことを実にこまめに繰り返していく。一投、一投、こまめに繰り返していく。

2時半終了。
フラシの数では、上位をキープしそうだが、甲南は釣り方やタナで型が全然違うから、重量を計算するまでは分からない。まして、本日参加者55名中、各メーカーのモニターを務める名手も多数競っている。今日の取材に通じている者は、美原の成績はいかにと気を揉んでいるが、当の本人はあっけらかんと仲間相手に釣り談義に興じている。
成績発表があった。釣果90枚 34.4kg。トップとは1.5kg差の同率2位に入った。
優勝こそ逃したものの、取材という緊張感とタフコンディションの中でのこの結果はやはりさすがである。
以前、美原とこんな話しをしたことがある。
「私も競技会が好きなんですが、いつも仕事の関係で出れなかったんです」
「それでですか。美原さんなら何かタイトルを持っていてもおかしくないと思っていたんです」
(そんなことはありませんよ)口にはしないものの、謙虚な美原のそんな声が聞こえた気がした。

無冠であっても一つの釣りを突き詰めた美原の強さは本物。
機会があれば表舞台で活躍してほしい漢(おとこ)の一人である。

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