へら鮒情報局

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「あと、二投で釣れるよ」
誰に言うでもなく、橋本はひとり呟いた。
その二投目、ウキトップの付け根から三節目のエサ落ち目盛付近でトメが入る。そこから小さいが力強いツンアタリで、見事に予想が的中する。いや、予想という表現は間違いだ。そもそも橋本の釣りは、予想や予見で成り立っているのではない。その二投後と断言したことこそ、釣りをシステマチックに構築した橋本流の本質を端的に表しているのだった。

7月17日、御存じ「羽生吉沼」。東北自動車沿いに、兄弟管理池「加須吉沼」と相並ぶヘラブナ管理釣り場の横綱格。取材当日は、明け方に小雨がぱらつき、ひんやりとした涼しさを覚えるほどだった。平日ということもあり、一本の桟橋に例会組とおぼしき予約があるだけで、あとはガラ空き状態だ。
「でもここは、エサを打っている桟橋が固定されていますから、結構場所ムラがあるんですよね」
橋本としては、水深がある中央付近の富士桟橋に入釣したそうだったが、あいにくそこは例会組が先着しているため、やむを得ず手前の赤城桟橋を選択。羽生吉沼はスリ鉢状の池で、中央付近で6m以上の水深があるが、赤城桟橋では5mがやっとという状態。深宙・両ダンゴをやりたい橋本にしてみれば、少しでも水深のあるところでというのが本音だろう。

古今12尺の竿いっぱいに忠相スタジオデザインミッド9番のウキをセットし、道糸はスーパーへらピンク1号、ハリスプロバージョンV 0.5号55cm/70cm、ハリ上下グラン鈎5号という仕掛をセットした。

注目のエサブレンドはこうだ。
単品爆釣A 240cc + 単品爆釣B 120cc + 水120cc で練ってから少し間を置き、再び単品爆釣A 120ccを加えて絡めるようにかき混ぜた。

「練るとは言いますが、決してエサをボウルの底にこすりつけるように練るのではなく、指を熊手状にして、撹拌するだけです」
単品爆釣Aは、水を吸わせてやるだけで、簡単に芯が作り出せるハイポテンシャルな逸品。かつては、一度ボウルの底にこすりつけてネバリを出したエサを水で戻し、その上に別の麩を追い足し絡めた、いわゆる「戻しエサ」なるものが、その名の通り単品で作れてしまうのである。また、橋本が作ったように、単品爆釣Aを先に水で溶き、あとからもう一度単品爆釣Aを絡めるという方法により、ボソッ気も残せる使い分けも可能なのである。
単品爆釣BはAに比べて、集魚効果とバラケ性に富んでいる。B一杯(120cc)を加えたことが、両ダンゴにもっとも大事な、エサ持ちのよさとボソという相反する特性を可能にしたのだった。

エサ打ちが始まった。
もちろん、落とし込み。
ウキが立つ。
「今、オモリを支点として道糸とハリスがV字型で水中にあります。ここからハリスが張っていこうとしています。最近は倒れ込みと言うんですね。ハリスは真っ直ぐに張る訳じゃありませんから、ここで食ってもウキにアタリは出ません。ヘラに煽られ、叩かれ、お手玉、ピンポン状態でユラユラと落下していきます。ここから、道糸とハリスが一直線になる間に食わせたいんです」
橋本の話しをウキの動きで解説すると、ウキはまずボディとトップの付け根で立つ。ここで、ヘラの煽りによる「受け」が入る。エサ落ち目盛を通過する直前からなじみ切るまでの間で食わせろということだ。
「エサがなじんでしまって、水中に真下にぶら下がった状態じゃヘラも食い気おこさないでしょ」
したがって、まず受けが出るようなエサであること。そのためにはボソッ気が必要だが、ヘラの煽りでエサがバラケ切ってしまうのではなく、削られ「食い頃」となる芯の残るエサであること。
橋本流エサコンセプトは、話を聞けば聞くほど基本中の基本なのである。だから、橋本は予想や、予見で釣るのではなく、それこそ一投一投、基本に忠実にエサをハリ付けして打っていくのである。

その、受けが出始めた。「二投後に・・・・・・・」の呟きの後、次に受けから食いにつながるエサを打った。このエサは表現は悪いが「捨てエサ」と言っていい。そして、勝負の二投目、前述通り食わせたのである。見た目で判断できたのは、エサの大小である。

打ち始めより、釣り込むときは確実に小さくなっている。
「受けが出ましたよね、そこから食いにつなげるためには、早く食い頃の小さい芯にならなくてはいけません。受けが長いということはエサが大きいか、ボソッ気が強いと判断します。エサ付けの方法で一投試してみることで、次の二投目で確実に釣る自信があったんですよ」
エサを小さくするが、ハリのチモトを押さえてしっかり付ける。あるいは、大きいままだが、あまく付ける。角バラせる。丸くする。エサ下部はフレアスカートのように広がっている。
エサ付けのやり方は千差万別で、エサの大きい小さいということひとつとっても、それぞれ釣り人の基準は異なってくる。
「絶対に異ならないことがひとつあるんです。それはこのエサが必ず芯残りするということです、これだけは断言できますね」
芯残りするエサなのだから、あとは、受けから食いに至るまでのプロセスをいかに短縮し、スムーズにもっていくかということだろう。話しをしながらも、橋本は次々と合わせ、ヘラをヒットさせていく。

竿が穂持ちあたりまで水中に引き込まれる。

型はそれほどでもないが、真っ黒で精悍なヘラが釣れた。

羽生吉沼に限らず、ヘラブナは大型化されてきているが、地ベラかと思わせる、野趣豊かなヘラが出るのも吉沼の魅力のひとつだろう。

受けが少し弱くなってきた。間髪いれずに、単品爆釣AとBを3対1の割合で元エサが残っているボウルに入れ、これも水1を入れてガサガサとかき混ぜた。すばやくエサをリフレッシュさせるために、計量カップで計ることを省略した手段である。受けが弱くなったということは、時間経過とともに、エサのボソッ気がなくなってきたということ。そこで何かを加えるのではなく、エサを新しく作り替えたということに他ならない。
「常に、エサをこのように作り足していきます。だから、エサが減るどころかドンドン増えていくんです」笑いながら、橋本は言うが、それは橋本だけが持つ指先の感覚がなせる技であり、やはり、一般釣り人は、時間がかかっても計量カップできっちり計った方がいいのだろう。
「もうひとつ、とっておきの手を教えます。ダンゴにマッチです」
というや、元エサにダンゴにマッチをパラパラと振りかけた。それを、かき混ぜないまま元エサに絡ませるように丸めてハリ付けする。

ご飯の上に「ふりかけ」をかけた状態とでも形容しようか。
「どのようなエサでも、時間経過とともにエサが根づまりを起こします。だから、エサをリフレッシュさせるため、新しい麩を追い足ししてネバリを取ろうと努めます。深宙のタナの場合、私はダンゴにマッチがそれに最も適していると思います」
ダンゴにマッチを振りかけられたえさは、麩が立っている。それが、ヘラの食い気を喚起しながら、ダンゴにマッチは比重があるから下へ下へとヘラを誘う。事実、そのエサを打ってやると、受けが出ながら、ウキのエサ落ち目盛からズッズッという感じで食ってしまった。
「ねっ、すぐに食ったでしょ。ダンゴにマッチは薬に例えれば劇薬です。劇薬は少量づつ使うのがコツです。だから、少しづつ試してみてください」

橋本の深宙・両ダンゴの釣りは、難解で奇抜なことは何も述べていない。受けを出し、そこからのツンアタリを持続させろという、基本通りの釣りに徹している。だから、受けを出すにはどうするのか、その受けから食いに至るには何をすべきか、すべてはエサで決まるのだが、結論的には、エサの付け方と頻繁なリフレッシュが必要と教えてくれているだけなのである。
「重複するかもしれませんが、BASICのエサは必ずハリに残っているという絶対の安心感があるところから始まっています。だからあとは、タナに入った時にどれだけの量をハリに残してやるかということに神経を使えばいいだけなのです。多く残るということは、ネバリが出過ぎていてヘラの寄りが悪いか、エサの芯残りに不安があって、エサを揉んだりしているかです。作ったエサをそのまま揉まずにハリ付けしてください。あとはヘラが削ってくれますから」
朝は涼しささえ覚えたほどであったが、やはりそこは盛夏。釣りが終わって冷えたペットボトルのお茶を飲みながら、橋本はこう締めくくってくれた。

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