へら鮒情報局

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人気沸騰中のコミック誌「地味な剣聖はそれでも最強です」

その小見出しには、
● 修行も地味
● 技も地味
● しかし、最強

ここまできて、渇いた喉に一気に流し込んだ生ビールが、体に一本芯を突き刺すような閃きを味わった。これはヘラ釣りの比喩、まさにヘラの話じゃないか!、、、、、、、って。かつて、テレビ映像マンがこう言っていた。

「釣り番組でね、最も取り上げにくいのがヘラなのですよ。やはり動きがないですからテレビ的には一般視聴者には受けないんですよね」

確かに、トローリングや超大物との壮絶なやりとりを伝える釣り番組は視聴率が取れるが、ヘラではマイノリティなコア層だけだから低視聴率で終始する。

「ヘラ釣りの魅力って何ですか?やはり、引きの強さですか?」

世間一般の人達からこの種の質問を受けたのは、一度や二度ではない。引きの強さが魅力なら、鯉釣りのほうが圧倒的だろう。次の写真をじっくり観ていただきたい。

動きはない。顔も見えないから表情も分からない。背中で語っている? そんな茶番はよそう。だが、杉山の頭脳は、脳の皺一筋一筋が、仕掛はこれでいいのか? ベースの配合は間違いないか? ウキがこう動いたら、こうしようああしよう! 脳の皺が寄せては返す大波のごとく飛沫をあげているはずなのだ。表面に現れるものは「地味」。だが心中の波動は「派手」。

ヘラを知っている貴方だけが知っている常識の理。そんな上っ面だけが「地味」な剣聖(釣り人)が、ここにも居たのだった。

筑波白水湖、東桟橋。

竿:   古今8尺
道糸:  見える道糸 0.8号
ハリス: プロバージョンV 0.5号 20cm/28cm
ハリ:  上下グラン鈎 4号
ウキ:  杉山作 浅ダナスタイルコンセプト1番 パイプトップ(6目盛)
     今回は、6目盛中5目盛出し

<釣り方> ウキ下60cmの浅ダナ両ダンゴ
さて、肝心かなめのエサ作りにかかる。
* グルダンゴ:   240cc
* ベーシック:   120cc
* オールマイティ: 120cc
を、先に一緒混ぜしたところに、
* 水:       120cc
で、ガサガサと混ぜ合わせて放置。

観ていて、一瞬だけ、ほんの1ミリ程度だけ、(なんだ、定番か)と気落ちしたことを正直に告白する。

この場において、BASIC両ダンゴの定番「グルダンゴ・ベーシック・オールマイティ」の三点セットの出番に、筆者は改めてこれらのエサを精査し知悉したうえ披瀝したいと強く思った。

まず、「グルダンゴ」。その特徴は、ネバリが出るのに水中で膨らみ、なおかつ軽いというところ。必ずハリのフトコロに残る芯を作ってくれる。他メーカーが模倣して似たようなエサを作るも、ネバリを付けるのは簡単だが「膨らみ」だけは真似できずことごとく失敗。

次に、「ベーシック」。ブランド名になったベースエサ。まとまり感があるもボソ感を失わず、適度な比重がエサをタナまで入れてくれる。

最後に「オールマイティ」。ダンゴにバラケにまさに万能。ダンゴではボソがないとカラになる。エサも入っていかない。上記二品にうまく絡み合う器用さをもっているから、ニックネームは「たくみ匠麩」。

この三品のマッチングをBASIC両ダンゴの定番と呼ぶ。ダンゴに限定して言えば、まず「ネバリ」のないエサではハリ付けができないし、芯も残らない。しかし、「ネバリ」の度合いがやっかいなもので、ネバリ過ぎるとエサがピンポンされ入っていかなかったり、カラツンの原因にもなる。まだやっかいなことは、その度合いが刻々と変わることでもある。「ネバリ」イコール「忌み嫌われるもの」という公式がヘラの世界にはあるが、そうではなくネバリの度合い、強く、弱くを往ったり来たりするのが、ダンゴの宿命(いじくり方)だと考える。

まず杉山は、定番から入った。このまま一日通せないことは百も承知。どのように宿命と対峙するのか(ぜったいに必要だがやっかいなネバリと)。独創的な「いじくり方」が出るのかどうか。筆者にその焦点を見抜く能力にためらいはあっても、見抜いた技を披瀝するのにためらいはない。

第一投は6時45分。降雨の不安をよそに、重い雲はなんとか耐えてくれている。エサが手前に着水、その直後ウキが前方に折り重なる。

静かなのは5投目までだった。6投目からは写真からも分かるように、ヘラが湧いてきた。ひとつ加えるなら、曇天でも「見える道糸」は、非常によく見える。(下手な写真に写るぐらいだから)

ウキの肩でつっかえる。

乗った。

立つや否や、斜めに消し込んだ。これも乗った。6投目からアタリが出始めたと思ったら、空振りなしの連打となった。

「少しハリスを詰めてみます」

杉山は、ハリスを18cm/26cmに。(釣れるには釣れているが、どうもアタリ方が気に食わないようだ)ハリスを短くするとまた釣れたが、以前と同じような肩でのあげツンだったり、そのままひったくるような食いアタリがほとんど。ここで、まず一回目のエサの手直しにかかる。手水とグルダンゴを目分量基エサのボウルに加え、ガサガサと混ぜ合わせた。

「いつも目分量なのですみません。もしカップで計るならば、麩120ccに水30cc、いわゆる4対1でやればいいと思います」

申し訳なさそうに言いながらも、眼は自作のウキに。エサを目分量でいじくった。その目分量が合っていたのかそうでないかを教えてくれるのは、ウキの動きだけ。

「方向性を探るためグルダンゴを追い足ししてみました」

ヘラはウキをひったくるほど寄っているので、まずハリスを詰めた。エサも叩き落されると考え、よりハリ持ちがいい方向、すなわちグルダンゴのネバリを利用することに。これはまさに常套手段と言っていい。だがそれは、まだ方向性を探っているだけだと言い切る。方向性を探るその先に現れるもの、いじくり方なのか、エサ付けの方法なのか、あるいは全く他のエサが出てくるのか、カメラを首からぶら下げた筆者には皆目見当がつかないでいた。

それにしても、杉山のエサ付けは「まん丸」である。

「いつもです。ダンゴもバラケもこれです。バラケさせるため角バラせたり、雨垂れ型にハリ付けすることはやらないです」

ここでは、あえてエサの形状は問わずにおこうと思う。10人いれば10通りのエサの付け方があるからだ。問題なのは、常に同じ付け方をするからこそエサそのものの経時変化が分かりやすいということではないだろうか。余分なネバリが出たエサを、角を付けてバラケさせたり、逆に圧を加えて持たせたりするとエサをいじくる必要性がないことになる。(実際は上記の手段は常にやることなのだが)

「BASICのエサは、ボウルにある状態のままハリ付けして欲しいのです。エサはこねないと丸まりませんからこれは結構難しいです。練習しかありませんが」

言われて気づいたが、杉山は次のエサを二個左手に持っていない。合わせてハリを掴んでから、ボウルに手を伸ばし一個づつ、ひとつまみづつハリ付けする。

遠い昔、競いあったことがある。エサ付けの速さを。左手の中にエサを二個はさみ、二本バリを掴んだ時点でエサ付けも完了していた。しかしそのためには、エサをボウルの底に擦り付けて相当なネバリを出す必要があった。杉山は次のエサを二個、丸めもしない。一個づつ、こねることなく、いわばボウルのまま付けていく。

できそうで、でききれないが、これをマスターしなければエサ合わせをやる意味はない。もう少しネバリが欲しいと考えて、ネバリが出るエサを加えたのに、まだその上「コネコネ」すればより強いネバリが出てしまうし、逆に、ボソが欲しいと思ってバラケる麩を足したのに「コネコネ」すれば、何をかいわんやということになる。ボウル、それも今のボウルのエサをそのままの状態でハリ付けする。

BASICのエサがそれを可能にしたのだった。

10投エサを打って、8回合わせをくれるアタリが続いている。残りの2回は、とりとめもないウキの動きで、エサ切りせざるを得ない状況。8回合わせて、乗るのは3回。打率に換算すれば4割弱。これを1時間続ければ、20枚かそこらの釣果にはなるだろう。この状況は、今の管理池では上出来と言っていいはず。

しかし、このウキの動きが杉山は気に食わないでいる。新しく、「しめかっつけ」の封を切った。基エサに手水を打ち、しめかっつけとベーシックを加え、ガサガサとかき混ぜる。

(・・・・・・?)

出来上がった「新しいエサ」を、そのままに近い状態で丸めハリ付け。2投、3投。

明らかにウキの動きが変わってきた。水面直下のヘラの影は同じだが、ウキは肩でつっかえることなく入りながら、ドスンと食ってきた。一旦タナまでエサを入れてからのアタリ、という理想形の釣り方に変わってきたのだ。

「・・・・・・・?」

「これは私なりの解釈ですが」と前置きしたうえで、

「グルダンゴ ≒ ベーシック+しめかっつけという方程式を引出しにいれています。まずネバリが欲しければグルダンゴを足します。そしてそれは最初にやりました。でもネバリを増長させただけではウキの動きは良くならなかったので、引出しからベーシック、しめかっつけを引っ張り出した訳です」

『 ≒ 』は、やく、およそという意味。グルダンゴとベーシック+しめかっつけは、大体似たようなネバリを出してくれるが、指先での感覚は大いに似て非なるモノだそうである。

復唱する。エサ = ネバリが不可欠。ネバリがないとハリ付けできない。タナまで持たない。ハリの芯に残らない。(感覚的な表現に甘えるとして)ネバリの出過ぎたエサ = エサに非ず。ピンポンされてタナに入らない。カラツンになる。目先の魚を釣れば終わり。だから、どこまでネバリを出すのかが、ダンゴの肝だといえるのだ。杉山はまず、グルダンゴで道を探った、方向性に手をかざした。グルダンゴでも充分に食った。4割近い打率は筆者にすれば驚愕に値する。

だが、その上をいく、その先を常に読む杉山は、ベーシック+しめかっつけという秘法を惜しげもなく出して見せた。

ネバリ+α。

α = 多少のボソッ気、多少の比重、多少の硬さだという。ダブルも珍しくなくなってきた。

基エサ(といっても、始めの三点セットからは大分内容量はかわっているが)にベーシックとしめかっつけを追い足ししていく。ある時は、グルダンゴと手水も追い足していく。だから、ボウルの中のエサは全く減らない。いや、むしろ増えたくらいだろうか。それでも杉山の頭の中では、あらましの分量比率は分かっている。グルダンゴ3、ベーシック2、オールマイティ1、しめかっつけ2、水2程度だろうか。

「程度」でいいのだ。配合の正確な比率よりも、ウキの動きでその時必要な品種を追い足しするだけだからだ。そしてその作業をひとつのボウルの中でやるから、それも頻繁にやるから、ボウルの中身は増えていく一方なのだった。

「もし、全く違った方向に行っていると分かったら、このエサは捨てるしかありませんが、このように継続性のあるいじくり方の方がエサ合わせに整合性があると考えます」

言いながらも、またベーシック、しめかっつけ、手水でエサを動かしていく。

「要はエサをいじくるタイミングだと思います。サワリの出方、フワフワだけだったり、弱かったり、高い位置で出たりと、ウキの変化に即対応することですよね」

間髪入れずに、ということか。もう少し様子をみよう、もう少し。と、考えている間に、悪い方向に加速度的にエサが死んでいく。魚が多いからエサを持たせられるように「グルダンゴ」を足した。するとネバリが邪魔をして、タナに入る前に食うようになった。タナに入る前に食って長続きしたことはない。でも、ネバリも欲しい。

「ベーシック」と「しめかっつけ」を加えていくことで、ネバリ過ぎの緩和と適度なネバリ、適度な比重、適度なボソ感を調和させた。それでも、エサは必ずまた変化していく。すると、また何が足りないかを察知して、いじくっていく。グルダンゴの性質、ベーシックの性質、オールマイティの性質、そしてしめかっつけのそれを個別に把握していれば、それほど難しいことではない。

エサをいじくる作業に大した動きはない。しかし、頭の中はめまぐるしく動いている。ここまで練習(修行)してきたことは地味なもの。特に披瀝する技も地味。でも、最強の釣り師。

ちょっと気取って、ディス・イズ・ザ・ヘラ鮒。杉山の端正な顔立ちが、剣聖に見えてくる。


[杉山和由プロフィール]
S48年生まれ、茨城県在住。
ビッグへら鮒会、Y21クラブ、プロジェクトウィン、筑波愛好会所属。
ヘラウキ「杉山作」作者。モーリス、BASICフィールドテスター。

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