へら鮒情報局

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スイカに塩をかける。舌はまず塩辛さを感じ、その後にくるスイカの甘さを増幅させる。二種類以上の異なる性質が混ざり合うことで相乗効果が生まれる。これを「いいとこ取り」という。

「バラケ ぬき」はその名の通りヌキセット専用バラケだから、単品ではまとまりがつかない。「バラケ もたせ」はタナまでいって、一旦ウキをなじませてからバラケるという性質。ならば、「いいとこ取り」をすればいい。

麩4カップに水1カップがBASICの基本。1mのタナならば、「バラケぬき」3カップ + 「バラケ もたせ」1カップ + 水1カップ。3mのタナならば、「バラケぬき」1カップ +「バラケ もたせ」3カップ + 水1カップ。1mなら、水面直下からバラケが始まってタナに入るころにはバラケは付いていないし、3mなら中層からバラケがほどけはじめ、タナに到着した時点では小豆大くらい残る。まさに「いいとこ取り」の典型、論旨明快である。ぬき&もたせの性質が異なるバラケえさを組み合わせることで、いとも簡単に基本バラケの完成が実現できるようになったのだ。

清遊湖中央桟橋北向き。雨、それも春の嵐を伴うという前日予報に釣り人は躊躇してか、驚くほど人は少ない。天気予報は、占いや八卦じゃない。雨予報に釣行を断念して、清遊湖に実損を与えていることをもっと真摯に考えてくれなくっちゃ、などと冗談を交わしながらも釣り仕度を急ぐ。正面にヘラクッション、右側にロッドケース、背後にヘラバッグを整然と置くと、まず伊藤はエサとボウルを取り出した。

これからは、時系列に段取りを進める。

まず「軽いペレット」60ccに水180ccを入れる。続いて、万力をセットする。次にこの間放置しておいた軽いペレットのボウルに「バラケ ぬき」240cc、「バラケ もたせ」120ccを加え、均一に混ざるようかき混ぜる。このボウルを脇に置き、竿、仕掛、玉網を準備する。

エサを作る過程で、「しばらく放置後」という解説をよく見かけるが、伊藤の放置にはスキがない。まず最も吸水に時間がかかる軽いペレットが最初、そして放置。この間万力、竿受セットで時間の有効利用。続いてぬき、もたせを入れて「待つ」間に竿、玉網準備、およそ8分放置。先にエサを手掛けることで、放置時間を実利的に使うのであった。

BASICのエサは、充分に吸水することで下方向に落下することが大きな特徴なので、このような放置時間を作りたいのだが、無駄にボウッと待っていても仕方ない。基本的なことだが、「竿を出す前にエサ」の定説を有効に使う伊藤がここに在るのだった。

竿:   10尺、1m強のバラケ&即席ウドンのセット釣り
道糸:  プロバージョンV グリーン 0.7号
ハリス: プロバージョンV 上 0.4号 8cm/下 0.3号 45cm
ハリ:  上 グラン鈎キープ 7号/下 ウドン鈎 1号
ウキ:  杉山作 Sコンセプト1番 細パイプ(即席ウドンを付けて水面に三節出し)

バラケエサ:軽いペレット 60cc + 水 180cc(放置後)+ バラケぬき 240cc + バラケもたせ 120cc
クワセエサ:即席ウドン 10cc + 水 15cc

という仕掛・エサで第一投を打ち込んだのは7時前だった。バラケエサを小指の先大の大きさに付け、当然ウキの立つ位置に落とし込み。5・6秒でウキが立ち、ゆっくりなじんで、3目盛残して静止する。

「この時点でバラケは落ちています」

伊藤の横顔。

肌に染み込んだ、ヘラレジェンドの日焼け。その先にある、ウキを見るためだけにあるかのようなサーチライトを発光する眼。2・3度サソイ、いや、道糸にかかるテンションを取るように誘ってみる。ヘラ反応がないことを確かめ、竿を上げる。このサイクルがおよそ30秒。

バラケエサをタナ(今は1m強)に到達する前に抜き、下バリが垂直になるまで待つ。その後、やや上方で抜けたバラケエサが、下バリに同調、被さってくるのを見極めてから竿を上げる。二度、三度と秒針で測ってみた。そのサイクルはほぼ30秒だった。この30秒は、伊藤の血肉に溶け込んだ30秒なのだと確信した。

「いやぁ、アタらないですねぇ」

目はウキ、口先だけで伊藤は話す。今、低気圧が接近しているから状況はよくないはずだ。伊藤、何思う?

予報は嵐を伴う雨。晴れているのは、我々にすれば奇跡なのだ。水面直下にはガサベラの影がウロウロするが、タナには寄ってないのだろう。伊藤は最初に作ったバラケエサを目分量で半分別ボウルに移す。残り半分は保管。移したエサに「小粒ペレット」をパラッと塗した。

「比重をつけるためと、やはり集魚効果ですかね」

言いながら、ガサッと混ぜ合わせた。するとどうだ、今までとウキのナジミ速度に変化が出る。ウキトップの残り3節までが若干早く、あとの半節がゆっくり入っていくように思えた。思えた、ほどの落下速度の遅さ。クワセに反応し始めたのだろう、いわゆる「受け」が見られたのだ。

次の一投、残り三節からスパッと入る。
が、これはカラツン。
次の一投、残り三節からチクッと入る。
穂先が水中に引き込まれる。

第一号。だが、伊藤から出てきた意外な言葉は「今日は苦労しますよ」だった。「苦労」というのは「釣れない」という同義語。釣れない状況をどのように打破していくのかが主役の見せ所だし、筆者も読者も興味をそそられることなのだ。この結末は、まだ始まったばかりなので出るわけもなく、きっと終盤までもつれ込むことだろうが、伊藤ならきっと答えを出してくれるはず。筆者もあまた見逃すことなく、注視したい。

小粒ペレットが出てきたので、軽いペレットとの使い分け方法を尋ねてみた。

「今までの粒ペレだと、比重がありますから麩よりも早く沈んでしまいますよね。すると、粒ペレと麩との距離が空いてしまいます。麩と同じ層で漂うペレットを追求していってこの軽いペレットが生まれたのですよ」

「距離が空くのですか?」

「どうしても比重の違いがありますからね」

ペレットの粒がポロポロと落下していくことで、ヘラの就餌神経を刺激することは知られている。が、バラケエサはタナにとどまり漂わせることでヘラの足をそこに止めておきたい。この時、麩とペレットの落下速度に違いがあり、そこに距離が空き「間」ができると言うのだ。粒であって軽いペレット。麩と同じように、タナで漂ってくれるペレット。ネーミングもズバリ「軽いペレット」の生誕を迎えたのだった。

おまけもある。充分に吸水しても全くネバらないから、麩と同化することがない。従って、バラケの開きを良くするとともに、かたま塊りで落としてくれるから魚に喚起し、注目させるというおまけまで付録してきた。これも「いいとこ取り」と、言えようか。小粒ペレットについては前述通り、集魚効果と比重が大きな特徴であり、なおかつ小粒だけに麩と相性よく混ぜ合わせることができる。すなわち、ブレンド性に長けているのだ。軽いペレットと小粒ペレットの二種類があれば、ペレット合戦の先陣を切れると確信した次第だった。

「ようやく、タナも安定してきたかなぁ」

声に出さず、耳をそばだてないと聞こえぬほどの呟きが、聞こえたような気がした。

伊藤は、とにかくよくエサを作りかえる。新しく作りかえるのではなく、追い足しで作るといったほうがいいだろう。基エサを半分別ボウルに取り、それから使い始めた。最初30分はサワリなく経過したが、水面下にヘラの影が見え始め、やがて受け、サワリが出始める。ボウル半分のエサが当然少なくなってきている。するとそのボウルに直接、バラケぬき、バラケもたせを1カップ、水0.5カップ入れ、ガサガサとかき混ぜた。

ある時は、軽いペレット1、水1を別ボウルに作っておいて、時折足していく。次には、小粒ペレット、サラットも加える。伊藤はぬき、もたせ、サラットの麩系統のエサは目分量で行うが、ここでは分かり易いようにカップ表示にした。基エサを打ってみて、それが少なくなるころには、何が要る、何が要らない、あるいは基エサには使っていない別の品種が欲しいということが分かってくるはず。

軽いペレットと小粒ペレットは水との分量1対1で、麩エサはその分量4対1の割合で、伊藤の指先が熟知している感覚の目分量で次々に追い足し作りする。それもしょっちゅう、といっていい。だから、最初の基エサ半分は減ることはなく、むしろ増えていっているようにも見受けられる。このしょっちゅうエサを追い足し作りすることで、ボウルのエサが常に「た起っている」のが大きな特徴となることに気づいた。麩がネトッと粘っていない。麩が活きている。これがた起っている。

「タナにねぇ、もっと麩を漂わせておきたいのですよ」

水面直下にはガサベラはいる。だが、肝心のタナにはさほど寄っていない。いても数すくないからすぐ散ってしまう。足止めするためにも、タナに麩を、あるいは軽いペレットを多く漂わせたい。今、伊藤はこのイメージ、一心。そして、麩がた起っているからこそそれがタナに漂い、ヘラを足止めしているのだということを後々思い知らされることになるのだった。

低気圧の接近で、ジアイ的にはよくない。そのような中、伊藤が今日の釣りで最も心を砕いたのは、エサをタナに入れ、そのタナにどれほど多く、どれほどの時間麩を漂わせていられるか、ということではなかろうか。途中即席ウドンを入れるため、ハリスを短くした。ハリもウドン鈎1号からダンゴ鈎2号に替えた(クワセを入れるため)。バラケエサの大小を替えることで、ヘラのアオリにも負けず、タナまで入るよう調整したりもした。

通常は1円玉大、エサが負けないようにするには500円玉大と倍ほどの大きさにしたりして、その指先はとにかくじっとしていない。

ジアイがよくない、食い渋っている、ヘラの活性が今日はよくないねぇ、なんてのは日常茶飯事、耳タコと言っていい。その中でどれほどの結果が出せるのか、そしてその結果の差は周りと比べても「僅差」であるにもかかわらず、なのにであろう。そしてその「僅差」を勝ち取るために、あるいは、僅差を埋めるために、名手は如何ほどの研鑽を積むことかしれないのだった。

このようなことが今日の釣りであった。予想以上にクチボソが多い。今までもか、今日が特別なのかは分からないが、クチボソがヘラと同居している状態だった。「ヘラが寄ればジャミは散る」とは教科書だが、筆者は、ヘラとジャミの数でエサの取り合いの勝敗が決まる、と思っている。その証拠に、ヘラが勝っている時は、ジャミは時折スレで掛かる程度だが、ジャミのほうが勝っている時は、小さなジャミでもハリを食ってくる。まさに、この現象が目の前に現れた。

伊藤は、ジャミが時折カラを出す程度の寄りだったのだが、隣の友人は一時ジャミのイレパクになった。しっかりハリを飲み込んでくる始末に、最後は笑い転げた。(ご友人、この場を借りて謝罪の一行を献上いたします。)

「エサ、粘ってんじゃない?」

「いや見てくださいよ、ほら」

と、投げてよこしたエサは全く経時変化もなく、ボソッ気あるバラケエサだった。

伊藤(・・・・・・・?)
で、ハタと気づいた! バラケぬき、バラケもたせだけでなく、BASICのバラケエサは、二、三時間で変化するエサではないし、そのために120ccカップで作れば、変化する前に使い切るよう考慮されている。友人のエサも全くネバリは出ていない。となると、伊藤のバラケとの違いは、作り直す(追い足しして)頻度の差によるところの、麩がた起っているかどうかしかないのだった。

麩がた起って、タナに漂い続けるバラケの量が多いからヘラの補給、足止めができる。片や友人は、エサは粘っていないが、今いるヘラを釣ってしまって、足止め、補給がなかった、と考えると合点がいくのだった。BASICのエサは充分に吸水させると、下に下に落ちていくのが大きな特徴であり、前述した通り、吸水には時間をかけるようお願いしている。ということは、作り立ての麩は水が浸透していないから、落下しにくく、中間で漂うという物理的現象を起こしているのだった。

だから常に、エサをいじくる(練るのではなく)、パラッと某を振りかける、作り直す人に名手と呼ばれる釣師が多いのだった。しょっちゅう、エサをいじくる。よほど気をつけて観ていないと見逃すほどの地味な作業が、後々ボディブローのようにタナで効果を発揮する。釣果に最終的に現れてくる。

最後にこのような野趣豊かな地ベラが出て、取材を終えた。

 

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