へら鮒情報局

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芝原は仕事人ではない。

釣ることに夢中で、仕事を忘れてしまっている。へら鮒情報局の取材という大切な仕事をほっぽりだして、もう釣ることに一生懸命だ。それにしても「六番川」は、呆れかえるほど釣れるものだ。次から次へと竿が立つので、シャッターを押す指が痛くなってきたほど。おかげで、写真はいっぱい撮れたし、いい取材になった。ということは、芝原は立派な仕事をしたということになるのか。

野、というある種の重圧(オデコかもしれない)をはねのけ、今まで培った技量を駆使して、入れ食いを演じてくれた。結果として夢中に釣ることで、大役、大仕事をやってのけたのだった。

岡山県を流れる三大河川、東から吉井川・旭川・高梁川。これら大河が運ぶ土砂により、岡山平野は形成された。河川が最後に到達する児島湾は海抜ゼロメートル地帯につき、干拓の歴史は遠く江戸時代まで遡る。三大河川の間を縫うように、百間川、笹ヶ瀬川、鴨川、倉敷川が網目状に線分することから、大昔は一大湿地帯であったことを想像するに難くない。

上記列挙した河川の何処でも、へら鮒が釣れる。児島湾を埋め立て造られた児島湖。水利水質を調整する七区調整池(通称秀天)、そして六番川遊水池(通称六番川)など、備前平野には今も数多くの野釣り場が点在する。以前より「岡山はへら鮒の宝庫」と言われ続け、今もその言葉に偽りがないことを、今回の取材で確認することができたのは、やや大げさだが釣り界の朗報といっても過言ではなかろう。

昭和初期、起こるであろう他国との大戦に備え、食糧確保目的に鯉や鮒などの淡水魚をこの地にも放流したとの一説もあるが、実のところは定かではない。瀬戸内海の豊穣で美味い海水魚があるのに、わざわざ鯉、鮒ではあるまいだろうと、これも想像する。
「鮒は土の中から湧いてくる」
真しやかに囁かれる名言に、根拠は全くない。が、池底がひび割れするほど天日干しされた池に再び水を張ったところ、一年後には鮒が釣れたという経験もあることから、やはり鮒は土から湧いてくる?のだろうか。閑話休題(戯言はそこそこにしよう)。

そして今回は、そのひとつ六番川にやってきた。芝原明次が、その水先案内人を務めてくれる。釣りに夢中で仕事をしてないと勘違いするほど釣ってみせた技の一部始終をたっぷりとご覧いただきたい。

 
 

前日から下見をした通り、北岸の葦際に釣台を据えた。

本日の仕掛け・エサ_______________
竿    古今12尺
道糸   VARIVAS 見える道糸 1号
ハリス  プロバージョンV 0.6号 35cm/43cm
ハリ   上下グラン鈎 6号
ウキ   彰作 ボディ6cm PC

水深はおよそ1本程度なので、バランスの底釣りをやる。
上バリにバラケ用としての底ダンゴを作る。
*底釣り … 120cc
*底力 … 120cc
*水 … 240cc
*底一番 … 240cc

下バリのクワセエサは、
*やわグル … 100cc
*グルテンダッシュ … 100cc
*グルいも … 50cc
*水 … 250cc
を、準備する。

まず、新発売の「見える道糸」を解説してもらう。       

「エサの打ち返しの際、仕掛を掴もうとしても見づらくて失敗することってありますよね。そんなユーザーの声に応えて出来たのがこのラインです。VARIVASグリーンを継承しつつ、視認性に優れたライムグリーンとでも色別すればいいのでしょうか。しかも、淡い色合いは軽くて沈みが悪いように思われがちですが、穂先を少し沈めてやれば、ほら、スッとなじむでしょ」

芝原はそう言いながら、実践してみせる。

12尺の竿でタナは1本だから、穂先からウキまでの道糸は2m以上あるが、エサを打ち込んで穂先をクイッと沈めてやれば見える道糸はスムーズになじんでいった。道糸の沈み加減というのは、実に難しい。道糸に比重を付けるのはそう難しい技術ではなく、比重さえあれば道糸は簡単に沈んでくれる。しかし、重すぎると今度はウキに負荷がかかり、ウキの戻りも悪くなるし、仕掛け全体がテンションを負った状態となり、ヘラの食いに大いに影響をあたえるものなのだ。

さあ、続いてエサに移る。まず、上バリに用いる底釣り用ダンゴについて。         

「やはり底に溜まるダンゴエサを一番に考えました。宙で打つバラケエサではなく、底に置くように溜める、いわば置きエサとでもいうのでしょうね」

そのまま両ダンゴの底釣りでも使えるエサを、置きバラケとして使う。底釣りのバラケエサというのは、大きくバラケるものではなく、比重があって底に残る(溜まる)ものがいいという。次に、クワセエサとしてのグルテンエサを解説してもらう。       

「やわグルとグルテンダッシュの組み合わせは定番です。やわグルの持ちの良さにダッシュの適度なヌケが絶妙なバランスを醸し出します。私はそこにグルいもを配合するのです。すると、定番二種のタッチ感にしっとり感が加わることに気づいたのです。グルテンエサは時間経過とともにネバリ(ネバ感)が出ますが、それすら軽減させるような気がします」

やわグルとグルテンダッシュの定番配合に、グルいもを加える(芝原の配合比率は、1対1対0.5に対して水2.5)ことで、しっとりしたグルテンエサとなり。おまけに経時変化しにくいエサとなるそうだ。

「私は、最近ずっとこの配合で通してます。ネバ感というか、ネットリ感が出たグルテンはヘラも食いませんから」

言いながら、準備を終えた芝原は、第一投を打ち込もうとしていた。グルテンエサにグルいもを少量混ぜる(今日は全体の1/5程度)。それだけで全体にしっとり感が出て、また経時変化もしにくくなるという。これは、いいアイデアを戴いたものだった。ボウルには、濡れタオルがかけられていた。            

 
 

不規則な大石で固められた護岸に釣台をセットするのは、容易ではない。最初のエサを打ったのは、すでに7時を回っていた。水深は、1本でバラケ&グルテンのバランス底。(釣れるだろうか?いや、アタリすらもらえるだろうか?)「野釣り」というものに対しての当然な不安がつきまとう。よく晴れた一日になったが、それだけに早朝は放射冷却で田んぼには薄氷が張ったほどの寒さだった。

淡々とエサ打ちが続く。芝原は釣台の上にあぐらをかき、雲を見つけるのが難しいほど晴れ渡った空の下で竿を振るだけでご満悦の様子だが、当方は気が気でなかった。ウキにアタリが出て釣れるまでは、当方は仕事にならないので、周辺の探索に出かけることに。周囲の田畑は区画整備され、その中に六番川遊水地を中心とする「六番川水の公園」がある。春の息吹がそこかしこに感じられ、このような素晴らしい環境の中で釣りができる幸せは、単純明快に心のひだに浸み込んでくるのだった。

そうだ。もし釣れなくても、これだけの情景を「へら鮒情報局」にお届けできれば、それはそれでいいのじゃないか、とすら得心してしまうゴールドステージが提供されていた。しかし、このようなネガティブな不安感を一瞬でも持ったことは、全くの杞憂であったのだ。

「アタリが出てきました!」

芝原が大きな声で呼んでいる。望遠レンズに切り替えて一枚収めてから、急いで戻った。       

 
 

「ジャミかもしれませんが、ウキに変化が出てきました」

釣り座に戻ると、芝原は前のめりにウキに集中している。ヘラが寄ってきたが、塊りのエサにはまだ向かおうとはせず、その周りを泳ぎ回っているのだろうか。今まで通りバラケ&グルテンで数投打ち返して様子を見ていたが、このままではサワリだけで食いアタリは出ないと判断したのか、次には両グルにしてみることに。

ウキを注視する。まず受けが出ながら、エサが着床する。PCトップで二節のナジミ。徐々にウキが復元して上がってくる。

そこで、チクッと一節の押さえ、と、同時に古今12尺が水面を叩き大きく弧を描いた。エサ打ち開始から一時間半の、野ベラ第一号である。      

このヘラをよく見て頂こうと思い、UPで撮った。       

それは、野性味に溢れ、決して養殖ベラには類を見ないネイティブな魂すら秘めた面構えをしていた。

「両グル正解?」

「はい。ヘラが寄っているのに食いアタリに繋がらないというのは、バラケエサが邪魔をしているのだと思ったからです。しかし、このままずっと両グルで続けませんよ、色々とやってみます」

言うなり、次はまたバラケ&グルテンにして打ち返した。いや、野ベラというのは実に引きが強く、ポイントを掻きまわしていったから、寄ったヘラも一瞬散ったと考えられる。ハリの痛さを知らず、初めて竿に掛かったヘラは衝撃的に暴れ回るからだ。散ったヘラを再び呼び戻すため、また、バラケエサを打つのだった。バラケ&グルテンを打ち、サワリが出始めたら両グルテンにスイッチ、そしてまたアタリが遠のいたり、ヘラの寄りが薄いと感じたらバラケを打つ。この作業をいかに一投ずつ小まめにやれるかどうか、このあたりに肝があるようだった。

今の型で36cmクラス。通称「地べら」と呼ばれる、ネイティブ魂溢れる六番川の平均サイズである。こんなに立派なヘラが、土の中から自然に湧いてくるのだろうか…? しかし、これを「純野べら」と呼んで愛おし気に再放流するのだった。

「これからですよ!今日は早く釣れ始めましたが、普段は午後から良くなるようですからね」

芝原は全く手を休めることなく、釣ることに一生懸命だ。10時。すでに35cm~38cmを5枚カウントした。エサは小まめに、バラケ&グルテン→両グルテン→バラケ&グルテン→両グルテンの繰り返し。ところが、ここでグルテンを作り替えるという。

「先ほども言いましたが、グルテンエサはどうしても経時変化でネットリとしてきます。その証拠に今、マブナが釣れたでしょ。マブナが来ればエサにボソッ気がなくなった証ですから、速、作り替えます」

朝と同じ配合で作り直したグルテンを一つまみ触ってみる。言葉で表現するには擬音語ばかりでまことに恐縮千万だが、「しっとりした中にサクッとしたボソ感」と言い表すタッチに仕上がっている。グルテンは作り立てが良い、という。さあ、新しい作り立てグルテンの第一投。雲ひとつなく、クッキリ見えるウキが、誰にでもわかるアタリで刻んだ。

「ねっ。作り立てのグルテンの第一投は、必ず釣れるんです」

底釣りで、サワリはあるが食いアタリがなかなか出ない時、ネットリとした手触り感になった時、マブナ等が釣れた時は、グルテンはすぐに作り替えるのが正解ということを実証してくれた。そのためにも、一度に多く作ると無駄も出るのだが、逆に少量だと均一に作れずムラ・ダマになるから、一回あたりの分量も十分考慮していただきたい。入れ食いで釣れれば消費量も多くなるし、釣れなければ少しずつでいいだろう。

昼になった。すでに、30枚以上の釣果で、40cm上も一枚出ている。であるのに、芝原は一度も休憩しようとは言い出さないでいる。風も出てきた。そのため、ウキも結構流されるようになった。             

その時芝原は、ズラシ幅を少なくして、ウキがシモらないよう対処する。エサを底にズラシ、それをアンカー代わりにしようとすると余計にウキがシモルから、ウキが流される幅を決めて打ち返していくのだ。今、ほとんど両グル。早く打ち返すから、グルテンが「置きダンゴ」の役目。いや、打ち返すまでもなく、釣れてくるからか。ふと、後ろを振り返れば、入れ代わり立ち代わり見物人が感心して見入っている。それほど釣れたのだ。しかし、芝原はそれすら気付かず夢中で釣っていた。


[芝原明次プロフィール]
滋賀県在住
野が好きで、特にグルテンエサに精通している。
NPO法人日本へらぶなクラブ/チームBIGI/京滋湖水会 所属
バリバス、グラン、ベーシック フィールドテスター

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