へら鮒情報局

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取材地:愛知県犬山市 まるなが釣堀 

かつて「ファジー・fuzzy」という言葉が流行ったことがある。本来は曖昧という意味だが、それが転々として「いいかげん」「中途半端」と、あまり歓迎されない使い方をされるようになった記憶がある。森羅万象(ありとあらゆるものごと)は、科学的根拠や数的データーに基づいて論理的に解説されなければならない。森羅万象は大げさとしても、少なくとも釣りに関する事柄も同じであり、論理的に解析するように努めてきたことは事実である。

しかしここにきて、その限界を痛切に感じ入り、戸惑っている。
例えば「ヤワネバ」という表現。
例えば「カタボソ」という表現。
もっとある。
「手水で柔らかくしていった」_________!
何gの基エサに、何ccの水ですか?
ヤワい、カタイは人それぞれの感覚で全く違うから、数値で表せませんか?
「エサを入れる」_________!
何mの水深まで、そしてその速さは?

このように、ヘラ釣りのプロセスを数値で、理論的に解析することは不可能なのである。いや、不可能な事柄が多くあるといったほうが正しいだろうか。理論で解析できる事例は徹底的に理論的に、そうでない、いわゆるファジーな事例は、そう、理論の対義語「実践」をここで展開してみようと思う。

「線条降水帯(せんじょうこうすいたい)」
恥ずかしながら、今年になって初めて知った気象用語だった。
今、愛知県犬山市がまさにその線条にある。

局地的短時間大雨警報。携帯電話の異常音、緊急避難指示の速報メールが幾度となく入ってくる。みるみる間に池の水位が上がりだした。それは、二面ある鯉池の境界堤を超え、一面にしてしまったほど。
「タイヤの半分くらいまで水が来ています」とのことで、すぐに車を移動するが、この時点で全身ズブ濡れ、靴の中まで金魚が飼えるほど水が溜まっていた。雨はいつか止むだろうが、水路からあふれ出した濁流で道がなくなっているから、帰るに帰れない状況。当然、釣りどころではない。命を守る行動をとらなければならないのだった。

「林さん、ちょうどいい機会だと考えて机上釣り談義でもしましょうよ」
「そうだね、釣りの話をしたら止まらないのが釣り人の性だもんだで」

池の服部オーナーも人なつこい目を向けて、コーヒーを差し入れしてくれる。

「それにしてもこれだけの雨は、記憶にないですね。今まるなが釣堀は、救援物資も届かない孤立状態にあるのですからね」

自然現象の猛威に立ちはだかる術は、我々には何もなかった。

僅か二時間の釣りだった。
だが、それは結果論であって、早朝のまるなが釣堀は水馬(あめんぼ)が戯れるこじんまりした水面にキラキラとした日差しが眩しかった。

林の仕掛。
竿     7尺
道糸    プロバージョンVグリーン 0.8号
ハリス   プロバージョンVグリーン 0.5号 17/27cm
ハリ    上下グラン鈎 4号
ウキ    忠相 TSバレットLサイズ

エサは両ダンゴで、

*グルダンゴ … 240cc
*ベーシック … 120cc
*しめかっつけ … 120cc
*水 … 150cc
*オールマイティ … 120cc
という配合を、仕掛を出す前にサッと作ってしまった。

あの~っと、質問する間もなく、タナを50cm程にとりエサを打ち始める。聞くのは後回しにして、写真を先に撮ろうと判断したのが結果的には良かったのだが、もちろんこの時点では知る由もない。

万力、竿受けに林のセンスの良さを垣間見た。

ダンゴの二、三投も打てば、ウキのまわりにヘラが湧いてきた。

「このワサワサするのはヨタですから、相手にする必要ないですね」

エサが揉まれる。「もみくちゃ」にされる。しかし林はエサがもみくちゃにされようとも、ほとんど意に介さず、ボウルのエサをそのままの状態を維持して丸め、上からハリを刺すようにしてクルッとハリ付けしていく。ウキは当然のごとく、ヨタの群れに踊らされ真っすぐに入っていくようなことはない。

林は合わせをくれない。エサが入り、ウキがなじむのをじっくり待っている。入って、ツンとくれば言うことはない。「必ずアタリ返しがくるから、その返しを取るように」とは、小池忠教のダンゴイズム。ハリをダンゴの上から刺すように付けるやり方といい、その後のアタリの取り方といい、小池イズムを真っ向継承しているのがよく分かる。

30年以上前、筆者と林は応援するメーカーにおいて相対関係にあった。たまたま筆者の応援メーカーの方が優位な立場にあった。中京地区では、そのような中にあっても、まさに孤軍奮闘する林を遠目に見て、ある種の尊敬に似た思いを抱いていた。孤軍奮闘の姿はリスペクトといっていい。今日のところはこの話題は閑話なので、休題する。

今、投餌点はこのような状態。

それでも林は淡々とエサ打ちを続ける。

「上のヨタは相手にしません。今日のまるなが池は異様な蒸し暑さですから、ヨタもワンサカ寄りますね」

タオルで汗を拭いながら、丸めたエダンゴの上からハリを刺して形を整える。決して練り込んだりせず、ボウルの中に出来上がったエサをそのままの状態で丸めている。(以前のダンゴは、ボウルの底にこすり付けるようにしてネバリを出さないと、丸めることができなかったなぁ)筆者の胸中を拝察したのだろう、林の言葉が続く。

「以前のエサはボウルの中で20回、30回練ってネバリを出しました。そうしないと丸められませんし、芯残りしませんでした。釣り教室でも偉い先生は口をそろえて、練るな練るなと言ってましたが、練らないと丸められないのが本音じゃなかったでしょうか?でもこのような回転の速い釣りをやっている時にそんな暇ありますか? BASICのダンゴは作り立てのボソッ気のあるエサがそのままハリ付けできるし、今日のようなヨタに叩かれても芯残りするのが最大の特徴ですよね」

作ったエサをそのままの状態でハリ付けできる。なおかつ、魚に叩かれても芯残りする。この状況は、今までも実際に試してみてこのシリーズで披瀝してきた。(Study.14参照)
だから、BASICのダンゴは必ずタナまで届いている。林の確信の言葉だった。

「タナが出来てきました」林がグッと前のめりになりながら、呟く。

いまだに、投餌点ではヨタがワサワサしている。が、ウキが揉まれながらも入っていく。ヨタはこぼれた麩を追いかける。ハリに残ったダンゴの芯だけがタナまで届く。

タッ!とウキが消し込んだ。
ゴボッと、大きな水泡を吹きだしながらカウンターが進み始めた。

 
 

西の空にレンズを向ける。

青葉がやけに眩しく鮮やかな緑色をしている。いや、緑色が増したのではなく、背景の暗雲が普通なら空に突き抜けるべく陽光を遮断し、反射させているからだった。(これは、やってくるなぁ)
愛知県の天気予報は、曇りのち晴れだったから、全く油断していたといっていい。異様なほどの蒸し暑さ、そして普段見たことのない不気味なほど層の厚い雨雲。

ポツリ、ときた。
続いて、ポツリ。
ポツリ、ポツリ、ポツリ。
で、ドカ~ンとやってきた。

林は一目散に道具に覆いを被せ、筆者は急いでカメラを収める。どうにもならない、ただ茫然と見ているだけの、上からも横からも、下からまでも降ってくる大雨だった。

「まず、エサを作ってみましょう」
最初に池で作ったエサを再現してみる。
*グルダンゴ … 240cc
*ベーシック … 120cc
*しめかっつけ … 120cc
*水 … 150cc
*オールマイティ … 120cc
「基本的にBASICの麩エサと水の配合は、4対1ですが、今日は麩を5杯入れたので水は1.2杯としました。120ccカップを使いますので出来上がったエサの分量が少ないと思う方は、それぞれ倍にしていただいても結構です」
試しに倍の分量で作ったボウルと並べて分量を比べてみる。

左が麩5対水1.2、右が麩10対水2.4で出来上がった分量である。

120ccカップで作ると、出来上がりの分量が少なめに感じるかもしれないが、どのエサが合うか分からない朝の内から大量に作るのは無駄だと考えるし、経時変化する前に使い切れるという利点もある。この暑さの中、ダンゴエサは時とともに嫌なネバリが出てくる。その嫌なネバリが出る前に使い切れるようにBASICは120ccカップにこだわったのだった。

「あのまま釣りを続けていれば、オールマイティを抜いてベーシックを増やしてました。理由ですか?あの蒸し暑さでヨタが異常に上にいましたから、ボソッ気はいらんでしょ。それよりベーシックのまとまり感と頃合いの比重に助けてもらいますね」

「そのような時、林さんは新たに作り直すのですか?」

「私はね、エサを大きく変えたくないので、今あるエサの中に手水を打ち、ベーシックとグルダンゴを適量足すようにしますね。ベーシックだけだと基エサから変わりすぎるので必ずグルダンゴも一緒に入れます。逆にオールマイティを追い足す場面になってもグルダンゴを併用します」

「適量という言い回しは、ファジーですね。硬さを変えないという筋から言えば、ベーシックとグルダンゴ120ccずつ追い足ししたのですから、水も60ccとカップで測ればいいのじゃないですか?」

「でもね、硬さの感覚はそれぞれ違うでしょ。こんな柔いエサじゃハリ付けできない、という御仁もおられるしね。エサ教室なんかでは理論的に解説しなければならない使命感もありますが、今釣れている私のボウルのエサがすべてと言わざるを得ないのが本音ですよ。あれやこれやエサをいじくっていく内に配合割合が分かってくると思うのです。そしたら次は、その分量通り作り替えればいいだけですから」

今日、今、釣りを続けていたとしたらそろそろエサがなくなるはず。林の胸中を想像すれば、グルダンゴ240cc、ベーシック240cc、しめかっつけ120cc、水150ccというブレンドを選ぶに違いない。そのエサをできる限り練らないで打っていく。だが、そのまま上手くいくわけないから、手水を加えたり、圧を加えたりの常套手段を駆使する。だから、「今のボウルの中にあるエサがすべて」ということなのだ。

いい機会だから(大雨で釣りが中断されてやむをえず)、水槽実験をやることになった。
一番の目的は、エサの膨らみを実証すること。
Study17でも展開したが、ダンゴエサは芯持ちすることは当然ながら、「膨らむ」ことが重要なのだ。芯持ちさせるだけなら、麩に粘る力のある薬品を加えればすむが、それでは吸水するとベチャベチャのダンゴになるだけ。ダンゴが膨らむことの必要性、重要性は前回と重複するので割愛するが、ここでも林が新たな発見(?)をしてくれたので披瀝する。

丁寧にハリ付けした水槽に入れる前のエサ


水槽に入れた直後。すでにエサ自体が膨らんで、周囲が綿菓子のようなモヤで覆われている。

「これですよ、これ。このモヤッとした、実は微粒子の麩ですが、これがすぐに水中に漂ってヨタやジャミを惹きつけるのです」

間髪入れずに言った林の発言は、まさに新しい発見だった。(そうか、エサが膨らむということはそのような効果もあったのだ)


水中に入れて20秒後、しっかりと芯残りしている。

エサがいいのはよく分かったが、カメラワークが未熟のせいで、同じ作業を三、四投繰り返してOKが出る。

「すみませんね、このような大雨で」

「いや、天気ばかりは誰のせいでもないですよ。でもまだまだ車出られませんよね」

皆が屋根に叩きつける雨音に声をかき消されるからか、ついつい声が大きくなる。
と、その時、何気なく使用した水槽を振り返ってみた。

おそらく撮影後10分と経っていない水槽内が綺麗になっているのに気づかされた。今日使用した配合は、比較的軽さ重視のものだから、何投か水槽に放り込めば、その麩で水槽内が濁っているはずだった。

それが底にすべて沈下しているのだった。

「BASICの麩は吸水すれば下に向かうということが偶然にも立証されましたね。ウワズリ防止対策にもなりますしね。」  

大雨のおかげ、と言ってしまうのは負け惜しみなるが、そのおかげでこのような新発見もできたことになった。

林は、論理派か実践派か。

でき得る限り理(ことわり)は尽くす。それも懇切丁寧にだ。でも、練らないと丸められないダンゴを練るなとは言いたくない。絶対練らないか、といえばそのようなことはない。必要とあれば練る。圧も加える。その微妙なポイント、ダンゴエサの機微(口では言い表せない)タッチ。そのような時、林は「私のボウルの中のエサを見てくれ」と、実践主義で皆を引っ張っていくのだった。


[林末広(はやしすえひろ)プロフィール]
岐阜県在住。
簓(ささら)へら鮒会、リンクス、まるなが愛好会所属。
野釣りが大好きだが、エサを追求するため管理釣場も足繁く通う。
ベーシック、バリバス、グランフィールドテスター。

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