へら鮒情報局

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一の入江、二の入江、金市田、大手張、石切・・・・・・。各ポイントに付けられた名前を読み上げるだけで、「野釣りワールド」に瞬時に移動する。野釣りという言葉が持つ魅力は、常に我々の本能を揺さぶり続けて止まないものだ。

群馬県藤岡市「三名湖」。
 
この湖名の殷々と響き渡る轟きに、またまた魅せられた若き釣り人が、ひとり。
そう、福富大祐、30歳。名門中の名門、浅草へら鮒会にあって、小池忠教の愛弟子とならば、鷹が鷹を産んだのも同然だろう。2013年、2015年と浅草へら鮒会年間優勝。あの浅草で、だ。
 
福富は、今日、三名湖でダンゴをやる。やるコンセプトも筋が通って決まっている。後は、その福富コンセプトをどのように表現、解説できるかだけの問題なのだった。
 
 

西の空がたっぷりの墨汁で殴り書きしたように黒ずみだした。
(やってくるよねぇ)
光月の食堂から暗雲垂れ込める空を見ながら、誰に言うともなく呟いた。やがて、堰を切ったような、雨が上からではなく、横からも下からも降るものだと教えてくれるような豪雨に見舞われた。桟橋の様子を見に行っていたスタッフが急いで駆け戻ってくる。すると駆け戻ってきた途端に、雨足が衰えた。空が急速に明るくなっていく。まさに雨雲の通り道、その瞬間が通り過ぎたのだった。
 
過ぎた途端に、やろう、やろうと、ウズウズ、ワクワクしている高揚感を抑えきれないかのように、車から道具を引っ張り出す。大土手桟橋、ど真ん中。福富はまずパラソル、そしてスノコ、万力、竿、仕掛、エサ・・・。
 
「準備できました。エサ打ってもいいですか」
 
「えっ、もうできたの」
 
なるほど、よく釣る人は、総じて準備の要領がいい。最初の用意から、最後の片づけまで、時間短縮と名手は一致する。準備は頭でする。釣りも頭でする。だから、準備片づけの速い人は釣りの上手さと一致する。
 
福富の仕掛&エサ。
竿・釣り方   18尺 チョウチン 両ダンゴ
道糸      プロバージョンV ブラウン1.2号
ハリス     プロバージョンV 0.5号 55/70cm
ハリ      上下グラン鉤 6号
ウキ      大祐 プロトタイプ ボディ12cm PC

続いて、エサは、
*グルダンゴ … 240cc
*ベーシック … 120cc
*水 … 150cc
*単品爆釣A … 120cc
という、配合にした。
 
「グルダンゴをエサの核というか芯に置き、タナが深いのでベーシックの比重を借り、最後にAでコーティングしました」
今回のブレンド理由を説明してくれた。
 
そのエサをクルッ、クルッと器用にハリ付けする。

上下二個のエサは、丁寧にしっかりとハリ付けされている。

エサ打ちが始まった。
 
6時ちょうど。大きな雨雲は去り、今は大きめのパラソルで防げる程度の小雨模様。ウキは水神から石切の山影をバックに美しく映えている。

まず、エサ落ち目盛を確認する。

ウキは自作「大祐」11目盛。2目盛沈めて、水面に9目盛出し。
 
「肩で受けさせ、そのままチクッと入るのがまず一番目のアタリ、続いて、エサ落ち目盛通過後から飛び込むのが二番目アタリ、受けもなくエサがなじんでしまえばその回は終わりです」
 
福富の勝負位置は、この二点。ウキの肩の受けと、エサ落ち目盛通過時。すなわち、ハリスが張る前段階で、いかに魚がダンゴに興味を持ち、そのまま口にするかということに絞られる。
 
エサ打ちが続く中、早速動きが出た。基エサに手水を打ち、そこにグルダンゴを振りかけかき混ぜる。
 
「エサが持ちすぎている感じがしたので、グルダンゴを追い足しすることで、より膨らむようにしました」
「でも、グルダンゴじゃ余計にエサ持ちがよくなるんじゃないですか」
「いえ、そこがグルダンゴのいいところです。これからじっくりウキを見ていきましょう」
 
今日の三名湖は、土曜日ということもあり空いていてヘラの動きはいい。開始から数投で、魚の気配があり、ウキにもサワリが出始めている。ここでまず考えるのは、深いタナまで(18尺)しっかり持つエサであろう。グルダンゴ・ベーシック・単品爆釣Aというセットは、その点うってつけといえよう。しかし逆に持ちすぎて、ハリスが張りきる(なじむ)ようでは、福富の速い釣りの意味がなくなるのだった。すんなり、二点を通過してしまうのだ。
こんな場合、通常ならバラケ性の強い品種を混ぜる。時系列は前後するが、バラケ性を求めて「オールマイティ」を追い足ししてみたところ、魚がワサワサするだけで、ウキは取りとめない動きしかせず、食いアタリに繋がることはなかった。オールマイティは魚を寄せるにはいい。足止めさせるにも優れている。
だが、今は落下途中のダンゴの塊りを口にさせることなのだ。そのためにはグルダンゴこそが最適と考えたのだった。

福富は、エサの手直しに計量カップを使わない。手で水を掬い、手づかみで麩を入れる。幾度となくこの作業を繰り返すと、指先がそのタッチを覚えてしまうから、それはそれでいいと思う。「ヤワネバ」や「カタボソ」といっても、人それぞれ千差万別に違いないのだから、自身の指先の感覚を信じるしかない。
エサの硬軟を変えない方法としては、BASICのエサは水30cc + 麩120ccで調整するのがいい。麩4に対して、水1という、BASICのボトムセオリーだ。
そして福富は、頻繁にこの手直しを行うのだった。エサが経時変化する間なんて考えられないほど、しょっちゅう手水・麩を繰り返していく。これも常にダンゴが立っている、活きていることになっているのだと考えられる。そしてその麩が、本日は「グルダンゴ」なのだ。
 
核心(コア)に迫ろう。
グルダンゴの特性は、軽さと芯持ちの良さ。こういった類の麩を作るのには、それほど面倒は要らない。麩は元来、軽いものだし、そこに粘る力の粉を混ぜれば事足りるからだ。しかしこれだと、吸水後はベチャ、ネットリ感が出たどうしょうもないエサになるはずだ。グルダンゴのもうひとつの最大限の特性、水中での「膨らみ」だけは、上記の軽さ、芯持ち製造手法に相反することだけに、決して真似できないものとして確立しているのだった。福富も、この「膨らみ」を最重要視している。ここから、擬音語連発をご容赦願いたい。
 
ダンゴをぶら下げていてからでは釣りが遅くなる。ヘラがエサを口にするのは、ハリスが張る、ユラユラと落下していく時だ。そのユラユラもできるだけゆっくりの方が、ヘラの気を惹くのは当然のこと。そのためには、膨らんだエサほどゆっくり、フカフカと漂い沈んでいくとイメージする。フカフカ感をイメージするのに、軽さは当然のこととして、膨らみの重要性がよくわかるはずだ。ヘラは、タナより少し上にいる。どのようなエサを打とうとも、ヘラは口を上に向ける。
 
目の前にエサがユラユラ、フカフカ落ちてきた。そのスピードが速ければ(僅かな速度変化だが)、ヘラはエサに興味を失ってしまう。フカフカしたエサでないと、口にしない。しないというよりできないのだ。
18尺チョウチンだから、落下途中のエサの剥がれも考慮して、ネバリ・芯持ちの良さはもちろん大事だが、タナに入ろうする瞬間にそのエサの芯が膨らんでいることで、そのまま飛び込ませられるのだ。
 
それにしても、これほど手水・グルダンゴ、手水・グルダンゴを繰り返す姿を見るのは初めてだった。

福富のダンゴが、常に活きているのも頷ける。
 
「本日の決まりエサ、グルダンゴ 2 + ベーシック 2 + 水1」
 
当日の実釣模様をスライドショーにしてみた。
 
福富の竿が水面を叩く。

三名湖の地べら。

18尺いっぱいだ、何とか浮かせた。

動画にできない本稿に、動画なみのリアリズムが伝わっただろうか、不安甚だしい。敢えて無理(?)をしたのは、地べらとおぼしき野趣豊かな三名湖のヘラを、是非皆様に疑似実釣体験して戴きたかったからに他ならない。
一目で三名湖が好きになった、そう思わせる黒々とした、肩の張った、野性味溢れるヘラ、福富が「のめりこみました」と、言うのも当然のことなのだった。
 
「エサを作ったのって、朝イチのみですよね?」
 
そういえば、朝あっという間に釣支度を終えた時にグルダンゴ、ベーシック、単品爆釣Aという配合でボウルに作って以来、後はグルダンゴの追い足し、オールマイティの追い足し、ベーシックの追い足しと、追い足しだけで、作り替えは一度もない。
 
「いつも、こうなのですか?」
「エサを一から作り替える時は、方向性が完全に違うと解釈したときだけですね。ウキに出るアタリと相談しながら、その場その場で必要な麩を追い足ししていくと、全体的なエサの量は全然減りませんからね」
「では今のボウルに残っているエサの配合分量は、分かりますか?」
「ええ、グルダンゴ 2 + ベーシック2 + 水1 くらいだと思いますよ」
 
オールマイティを追い足ししたところ、ヘラがハシャギすぎて釣りにならなかった。単品爆釣Aを入れた最初のエサは、とっくに使い切っている。ベーシックは、エサが魚に負けていると思えば追い足ししてきた。ヘラの寄りがいい上、大型だからアオリも強い。
 
こんな時、福富は「エサ負けしている」と考え、ベーシックの持つ僅かな比重とまとまり感を利用してきた。グルダンゴは再々度言う。「軽さ・芯持ち・膨らみ」を追求して、幾度となく追い足ししてきた。その結果、今のボウルの中は、グルダンゴ2、ベーシック2の比率だという。万一、そのボウルが空になれば、グルダンゴ2、ベーシック2、水1で作り替えれば、今と同じエサができるという。追い足ししながら、目分量ではあるがボウルの中身の比率が分かっているからだ。朝一番は、今日の釣りを予測してブレンドを決める。ホームグラウンドなら容易なことだし、アウェーならば情報収集が大事である。
 
福富が本日使用したエサはこの4種類。

朝作ったエサで、スタートした。
 
今日は、ヘラの寄りはかなり上向きだった。しかし、やはりそこはエサ慣れした三名湖の魚だけに、寄ることは寄るが、ネバリが出たエサや、締まったエサがぶら下がっても食い気を示さないと判断する。瞬時に、だ。そこで早速、グルダンゴを追い足ししていく。ダンゴが活き返ると同時に、エサ自体の膨らみが増す。活きたエサは当然のことながら、膨らむ要素を兼ね備えていることが絶大な効果を生む。如何にも美味そうで、ゆっくり、ゆっくり落下していくからだった。
ハリを1号落としただけで(重さにして0.何g)エサの落下速度は変わる。ウキをワンサイズ落としても、それは変わる。グルダンゴの膨らみを利用して、エサの落下速度を遅くするという手法を、今まで考え得た人はいただろうか。混雑時やヘラの活性が乏しい時、仕掛、ウキ、エサ共々、常よりワンランク軽くするのは当然の理。それは、ゆっくり落下していくエサにこそ魚が興味を示すからなのだ。
 
だから福富は、グルダンゴ。それも、しょっちゅう追い足ししていくから、ダンゴに経時変化している「ひま」なんてない。軽いが芯持ちする。その上、膨らんでヘラの食い気を誘いながらゆっくり落下していく。軽いがゆえヘラが大型すぎてエサ負けするときは、ベーシックを補充する。だから、本日の決まりエサは、グルダンゴ2 + ベーシック2 + 水1という結果になったのだった。
 
軽い麩エサは、いっぱいある。それにネバリをもたすには、粘る力のある粉を混ぜればいい。でもそれだと水で溶くと、ベチャっとしたどうしょうもないダンゴになる。両方(軽さ・芯持ち)を備えながらも、これをフワッと膨らむエサにしたのがグルダンゴなのだ。そして、その特殊といっていいグルダンゴの特性を最大限に活かす若き野釣り師・福富大祐が、今、ここで釣っている。

 

[福富大祐(ふくとみだいすけ)プロフィール]
1986年生まれ、栃木県在住。
浅草へら鮒会に所属し、平成13年、15年と年間優勝。
野釣りが大好きだが、エサを追求するため管理釣場も足繁く通う。
ベーシック、バリバス、グランフィールドテスター。

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