へら鮒情報局

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4月下旬某日、武蔵の池。心なしか、背が丸まり、周囲も薄墨を刷いたように静まりかえっていた。いや、レンズを通すと悲哀とも形容しがたい、絵しか映らなかった。
野島は、実は、そんな風景が似合う男じゃない。日焼けした浅黒い顔に、ウキを注視するための眼光鋭く、狩猟民族の血が滔々と体内を駆け巡っている、まさにシューターと呼ぶにふさわしい釣り師なのだ。今、脂の乗り切った38歳という年齢もさることながら、日本で最も歴史と格式を備えた釣会のひとつ「浅草へら鮒会」にて昨年度年間優勝を果たしている。そんな彼が、今、大苦戦している。武蔵の池と正面きって、対峙している。

竿は8尺を継いだ。それに、バリバス プロバージョンV ブラウン 0.7号の道糸、ハリス バリバス プロバージョンV 0.3号 25cmと33cm、ハリ 上下グラン鈎 4号、ウキ鮒覚坊 3番という仕掛をセットした。

エサは、当然のことながら「両ダンゴ」。
「管理池でも、ダンゴしかやりません!」と、断言する野島にすれば、当然の選択である。
*グルダンゴ   ・・・240cc
*オールマイティ ・・・240cc
*水       ・・・150cc
*ベーシック   ・・・120cc
という配合で、手際良く仕上げる。

この配合はおそらく、BASICのレパートリーの中で、「単品爆釣A」「単品爆釣B」が発売される以前までの最強ブレンドパターンと言えよう。
「グルダンゴ」の必ず芯残りするネバリ、オールマイティの経時変化してもヌケるバラケ力、ベーシックは言わずもがなのまとまり感。この三種の組み合わせ比率を少しづつ変えるだけで、あらゆるシーンに対応できる、まさに王道の座揺るぎなき配合例なのである。
タナを1mにセットして、第一投を静かに送り込む。エサが着水して、5秒でウキが肩の位置で立つ。オモリが真下に来る。V字型のハリスが倒れ込むにつれ、ウキトップがなじみをみせる。こんな静かな状況を見せられたのは、五投までだった。いきなり、ウキに変化が現れた。ヘラが寄ってきた。いや、湧いてきた。地の底から湧いてきた、そんないきなりの寄り方だった。ご存じの通り、武蔵の池は魚影の濃さでは定評がある。毎年の放流量も半端じゃない。ただ、池の開業が昭和47年というから、すでに40年の歴史を誇る、管理池の老舗である。その中には、働きに働いたヘラも大勢いて当然なのだが、我々釣り人は、これらを総称して、「ヨタベラ」と忌み嫌う。
そのヨタベラが寄ってきたのだ。ウキに出る現象を表現すると、「とりとめのないサワリ」と置き換えてもいい。ヘラブナ釣りが小さくても、力強い、手の出るツンアタリを追求するのが最終到達点だとすると、このとりとめのないサワリ、すなわち、ヘラがハリに付いたエサに向かっていなくて、こぼれた麩ばかりを求めるあまり、アオリ・糸ズレを起こしている状態を打破しないかぎり、いつまでたっても到達点には届かない。
野島がテンポよくエサを打つ。カラ合わせをする。ハリスを掴む。両バリにエサをクルックルッと付ける。その仕草は、まるで「あやとり」を見るような器用さである。

すばやくハリ付けされたエサを、大きさを測るため写真に収める。

決して撮影用に丸めた訳ではないのに、あれほどすばやくハリ付けされたエサが、こんなに丁寧で美しさすら覚える絵がそこにあるではないか。
野島は、常にエサを一定の大きさにして丁寧にハリ付けする。大きくしたり小さくしたり、ラフ付けというのもあまりやらない。なぜなら、エサ付けを変えてしまうと、配合の何が正解で、何が間違いなのかが誤魔化されるからだ。
しばらくして、ここで最初の一手を打って出る。「しめかっつけ」を無造作にパラパラと元エサに振りかける。
「自分的には、しめかっつけを加えることで、エサ自体を軽くしようと考えています」。
グルダンゴ・オールマイティ・ベーシックという配合で作った元エサは、軽く仕上がるブレンドパターンであるが、BASIC品種の中にあって、最軽量の部類にあるしめかっつけを加えて、もっとエサを軽くしたいというのが、野島の狙いだ。
日曜日などで釣り場が混雑しているとき、ヘラ自体の活性が低いとき、比重のあるエサより、軽いエサを選択するのは定石といえよう。まして、しめかっつけは、軽いうえに他品種との相性がよく、エサに芯が作れる特徴を備えている。野島の一手なるか、と興味津々ウキを見つめるが、如何せん好転の兆しはなかなか見えてこない。
理由ははっきりしていた。両ダンゴの「時合い」ではない、の一言に尽きる。
周囲の釣り人を見渡しても、ほとんどが固形セットか底釣りの中、野島ひとりが両ダンゴで真っ向勝負を挑んでいる形なのだ。
ポツリ、ポツリといった釣れ方は、決して野島の本意ではない。
いかに両ダンゴが好きだからとはいえ、セットの時合いに両ダンゴだから負けました、とは口が裂けても言えまい。
1mのタナ。その上にヨタベラがいる。ヨタベラの層を突っ切って、そこにいるはずの純正のヘラを食わすにはどうするか。シュートレンジに入り、照準はピタリとその一点に絞り込まれた。

「ダンゴにマッチいきます」と、言うなり、
*グルダンゴ   ・・・240cc
*ベーシック   ・・・240cc
*水       ・・・150cc
*ダンゴにマッチ ・・・120cc
という配合で、すばやくエサを作り替えた。

釣り始めてすぐに、今日はヘラの活性が悪いと考え、しめかっつけを加えて、エサを軽くする方向にもっていったが、好転しなかった。ヨタベラがウワズリ傾向にあり、それならば次はウキになじみ幅が出るくらいのハリ持ちのいいエサ、との結論を導いたのだった。
するとどうだ。いままでは、ウキがなじむのは、アオリなじみのような不安定さであったのに、オモリを支点とする道糸とハリスのV字型から、ハリスの倒れ込み、真下への落下がはっきりと出るようになったではないか。エサの重みによる3節のなじみ。いや、「ダンゴにマッチ」によるところの、エサ持ちの良さによるなじみ、といったほうが正確だろう。こぼれ麩を追いかけるところから生じる、アオリのサワリもやはり少ない。ジワッと上がってきたウキが、半節チクッと入った。

明らかに、1mのタナ下から上を向いてエサを口にしたアタリ。
「やはり、上層のヨタではなく、その下にいるヘラが食いましたね。ダンゴにマッチは、比重もさることながら、エサを確実にタナまで持たせますから、食ったんですよ。いわゆるなじませ釣りというものですかね。最初に作ったエサでもハリに芯は残っているのですが、ハリスが真下まで倒れ込まないままだったのが、ダンゴにマッチのおかげでそれが入っていくんですね、素晴らしいエサです」。
食いパターンが決まった。エサが合った。それは、たった1カップ「ダンゴにマッチ」を加えるだけのことだった。ふと、不安がよぎる。このようなエサができれば、誰もが簡単になじませ釣りで釣れてしまうのではないかということだ。しかしヘラブナは、周期的に食い方・エサの嗜好が変わることを我々は知っている。昨年釣れたエサが今年は全然追わないということも多々ある。なぜなのか、ということは誰にも分からないが、今は、この「ダンゴにマッチ」がグルメなヘラブナにとって最高のエサであることは確実のようだ。

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