へら鮒情報局

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「ドボ宙っていうネーミング、あんまりオシャレじゃないですよね」
「そうですか?ドボ宙って実は私のおやじが言いだしっぺなのです。だから、古臭いことは確かですけどね」
そんな他愛もない会話から阿川とのやりとりは始まった。そしてそれは、我々が無知ゆえの思い込みだったことを後々知ることになる。大きいバラケに、下ハリスを長くして「オカメ」で釣る。バラケが大きい分、ウキは潜るからタテサソイの連続の中、バラケの煙幕に漂うオカメを吸い込んでしまう。単純にそのような釣りだろうと、勝手に想像していたのだった。ならば、「パワーセット」と何が違うのか。なぜ、「ドボ宙」と呼ぶのか。阿川流が提唱するところの「ドボ宙」の深淵とは何なのか。今年の夏以降、椎の木湖で89kg、羽生吉沼で50kg、筑波流源湖43kgと、所属するFBクラブの例会時に叩き出した釣果は、すべて「ドボ宙」。この結果だけでも、大きいバラケにタテサソイの連続というような単純なものでないことは、誰の目にも明らかだった。

テレビの裏側を覗いてみると、タコ足配線がもつれ絡まりあっている。今、阿川から聞いた仕掛けとセッティングに、頭の中の配線も同じようにもつれてしまっている。回路と回路が、どこをどう繋がっていけばいいのか複雑に混乱している。
まず、仕掛けとそのセッティングの詳細を記す。
<仕掛け>
竿      古今11尺
道糸     プロバージョンV 1.2号
ハリス・ハリ 上プロバージョンV 1号10cm ハリグラン巨べら13号
       下バリバス糸付きストレートタイプ オカメ4号 75cm
ウキ     ボディ10cm PCトップ18cm  11目盛
オモリ    板オモリ、カラミ止め脱着シンカー0.3g

<セッティング>
まず、ウキを穂先から50cm下の位置(通常のチョウチン位置)にセットして、バランスを取る。この時点では、カラミ止め脱着シンカーのシリコンパイプは装着しているが、取り外しの効く0.3gのオモリ自体は着けない。バランス位置は11目盛の4節沈めたところで、通常通りのバランスと思える。板オモリをハサミで丁寧に切りながら慎重に取った。取れたところで、シンカー0.3gを取り付けると、ウキは潜ってしまった。
「これでいいのです」
「えっ?」
「いや、0.3gに行き着くまでは色々苦労しましたが、この重さがトップを沈める速度に最も適しているはずです」
エサも付けないカラバリ状態で、ウキを沈めてしまう。まず、ここでびっくりであろう。次に、ウキを穂先からトップの長さ分だけ余らす所まで上げる。いわゆる、「ツンツン状態」にしてしまう。続いて、上下に取り付けたウキ止めストッパーの下だけを、ウキ一本分下げた。ウキを遊動状態にしてしまうのだ。いかがです、テレビの裏側を見ているように回路が混線していませんか。イラストも参考に。

そして、竿受けに手尻を置いた状態で、ウキトップがバランスの位置に水面に出るよう、万力の角度を調整する。すなわち、7目盛水面に出るよう、万力のほうを調整するのだ。竿を手前に引けばトップは出てくるし、逆に竿を前に押し出せば、ウキは沈んでしまう。水面上にトップを二三目盛出して釣る「ドボン釣り」の時に、竿を引いたり突いたりすると水面上にトップが出たり入ったりするのと同じことだ。
「オヤジが、ドボンの仕掛けのまま宙釣りをやったら、たまたまよく釣れたんです。ドボンの宙だから、ドボ宙って言ってたらしいんです。それで私も最初からウキを沈めてみようと考え、竿先からウキまでの長さを詰めることでウキを持ちあげトップを出すようにしました。ただ、ウキを沈めるといっても、ドボ~ンと沈めるようじゃダメで、0.3gに行き着くまでは結構モタモタしました」
混乱した回線が、少しづつではあるがほぐれていく気配がした。何もしないと潜ってしまうウキを、竿先で持ち上げておく。この位置で人為的にタナを作る。タテサソイすることで少し上のタナを探る。サワリがあれば竿を送って今度は少し下方向まで探ってみる。
「イメージとしてはそういうことです。そんなに難しいことじゃないでしょ。フカセの脈釣り感覚ですから、誰にでもできるでしょう」
阿川が何年もかかって構築したドボ宙実践回路と、にわか仕立ての頭デッカチ新入り回路では、いきなり波長が合う訳ないのも当然かもしれない。仕掛けアイテムの中で、特筆すべき何点かをピックアップしてみる。
■竿・・・古今
阿川流ドボ宙は、意図的に穂先でウキを持ち上げたり、送ったりしながら、穂先のみでバラケエサの重さを計っていく。従って従来品以上の穂先の鋭敏な感度というものが求められる。単に細いというだけでは取り込み時には役立たないから、鋭敏でありながら引けるという逆の効果を併せ持つ古今はうってつけと絶賛する。
■カラミ止め脱着シンカー・・・0.3g
オモリをはずしてバランスを取り、次にオモリを装着してウキを沈めるという作業は、カラミ止め脱着シンカーなくして成し得ない。0.3gこそが阿川の経験が産み出したウキの沈ませ方だったのだ。
「脱着シンカーを装着しなければ、普通のチョウチン釣りにもすぐに対応できるのですよ」
そうか、その手もあったのか、というのが正直なところである。
■上バリ・・・グラン巨べら13号
13号は違和感を覚える大きさだが、何度となく繰り返すタテサソイにも、バラケエサをしっかり持ち続けさせるには、この大きさ、フォルムが不可欠。ハリスも1号と、あくまでバラケ対応として割りきっている。
■下バリ・・・糸付きストレートタイプ0.6号 オカメ4号
釣り場ですぐに使え、100cmまで対応できる便利品。いわずもがな、VARIVASのラインにGRANのハリは信頼のアイテムである。

さあ、肝心かなめのバラケエサ作りにかかる。
*バラケルペレット     60cc
*粒ペレG          120cc
*単品爆釣オカメバラケE   340cc
*水            120cc
ここで少し時間を置き、
*ベーシック        120cc
という配合である。
クワセエサは、
*オカメ呑(極小)
を準備した。

バラケエサの水と麩の量を見ていただければわかるように、出来上がったエサは、水分少なめのいわゆる「砂バラケ」と呼ばれるタッチのエサである。

「これを手の中でギュッと握ります。大きさは500円玉くらいですかね、上からハリを差し込みあとは形を整えます」

バラケエサの配合からいくと、オカメバラケEをベースにしながら、粒ペレGを120ccも入れている。この点について阿川は、粒ペレGこそがこのエサの要だといって憚らない。
「粒ペレGは時間経過とともに独自のネバリを出してきます。それがエサを持たせるのです。この釣りはエサが持っていることが基本です。粒ペレGで持たせるんです。逆に言えば、もう少しバラケを早くしたいときは、粒ペレFを使うといいですよ。Fは吸水後もペレットが崩れませんから、その分バラケを促進します」
なるほど、従来品の粒ペレGと、新エサである「粒ペレF」との使い分けも分かり易く解説してくれた。

雲の形は同じものがふたつとないが、種類別に分類すると10種類程度にすぎないそうだ。羽生の美しく晴れ渡った青空に、二度と見ることができない有形でありながらそのくせ無形の雲が、ポッカリ浮かんでは流れていく。この日、羽生吉沼では池主催の大会が開かれていた。池中央の最深部を中心とする桟橋付近はほぼ埋まっている。阿川と相談しながら、他の釣り人の邪魔にならず、逆光にならず、それでもある程度の水深が欲しいという場所を探して、結局、岩手桟橋の東向き366番に釣座を構えた。長々と述べてきた仕掛けのセッティングを終え、エサが出来上がると早速実釣に入る。しかし、この時点で早朝より大会に出場している選手の最高釣果はわずかに二枚という情報が入った。へら鮒のコンディションは、とにかく移ろいやすく、それは気圧の変化や、降雨の影響、寒暖の差と、人間の英知を超えた、繊細微妙な要因にあるようだ。
(ついこの前まであれだけ釣れていたのが、ウソのような変わりようだな)
阿川の偽らざる心の叫びが、口に出さなくとも聞こえてきそうだ。まず、バラケエサを握るようにしてハリ付けする。

ウキの立つ位置に落とし込み、竿尻を定位置に置くと、ウキはセッティング通り脱着シンカー0.3gを付けないバランス目盛で止まる。ここで、ウキを持ち上げるようにタテサソイを入れながら、すぐに定位置に竿尻を固定する。
「基本的にはこの動作を三回繰り返します。そして、サワリがあろうがなかろうが、次は竿を前に送ってやります。この時、ウキは沈んでいきますが、もたつきながら沈むようじゃ食っていません。食っていれば竿の手尻に伝わるほどスッとウキは沈みます。肝心なことは、この時決して合わせないことです。あくまでも、バラケエサの重みを感じる程度に竿先を上げるのです」
「えっ、合わせないんですか?」
「合わせると、バラケがヌケてしまうでしょ。合わせなくても、竿を前に送ることで魚はオカメを食うのです。そのために、ウキ一本分の遊動幅があります。ウキがより自然に上がったり、下がったりするわけですよ」
ウキを持ち上げることで、タナのやや上層部を探る。ここでサワリがあれば合わせるのではなく、竿を送り込む。送り込むことでウキへのテンション(緊張)は解け、オカメを口にする。普段の釣りでも竿を竿掛けから外してサソイを入れたりするように、ウキにかかる不自然なテンションを解除してやることがご機嫌斜めな魚には効果的だという理論なのだ。そして、普段の釣りと大きく違う点は、竿操作は作為的に行うが、ウキ一本分の誘導幅が、自然なエサ落下を可能にする、ということに他ならない。


ウキが潜って、そして上がってくる時もその逆の動きの時も、常にウキにかかるテンションを緩和するのがウキ一本分の遊動仕掛けと言えるのだ。
「ひとつ付け加えることを忘れていました。ウキがスムーズに道糸を滑るように、ウキのゴム管にも気を配ってくださいね」
「それにしても、どこでどうしてこれだけのアイデアが生み出されたのですか?」
「いやまぁ、色々やっているうちに、人に伝えるには適当にってわけにはいかないので、ウキ一本分だとか、0.3gだとか数値を求めていった結果ですよ」
竿穂先から道糸の余りはウキトップ分のみ、そこから遊動幅はウキ一本分、バランスは普通に取った上で0.3gのシンカーで沈める等々、今までに耳に目にしたことのないようなアイデアが満載なのである。アタリはない。サワリもまだ出ていない。先ほどまでポッカリ浮かんでいた雲は、もうそこにはなかった。

ウキを持ち上げたあと、竿受けに手尻を置くと、明らかにウキにサワリが出た。
(あっ!)
声が出そうになるのを必死で堪えかけた時、阿川は静かに竿を前に送った。送ったとほぼ同時に穂先がククッと水中に引き込まれる。
「やっと、食いましたね」
人懐っこい笑顔が、竿を操りながら降り向いてくれた。 

「やっとですよ。でもね、ほら釣れていてもこうしてバラケがまだ残っていて、付いたまま上がってくるでしょ、これがミソなんです。クワセのオカメはまず取れません。バラケもいつまでも付いていることが絶対前提なんです」

下バリにへら、上バリにバラケエサが付いまま上がってくるような状態を「弁当持ち」という。弁当持ちのバラケエサでないとこの釣りは成立しない。幾度となく繰り返されるタテサソイと送り込みにも耐えうる弁当持ちのバラケエサ。
「バラケちゃダメ、ってよく言うんですが、オカメバラケE、バラケルペレット、粒ペレGなどこのエサ配合でバラケないはずないですよね。エサ回りはかなりバラケているはずなのですが、ある程度までヌケルと吸水した粒ペレGにベ-シックが絡み、それが核になって残ってくれます。ボソボソのバラケをガンガン打つのではなく、タナまで到達する前にバラケたエサはある意味まき餌効果のみで、上バリがタナに落ち着いてからのサソイで細かくヌケル粒のようなバラケこそが、オカメを誘引するのだと思います」
「それじゃ、下バリのオカメはまだぶら下がってはいませんね?」
「おそらく、一度もまっすぐぶら下がらないと思いますよ。粒や粒に近い麩片が舞落ちてくる中、オカメは漂っているのだと想像できます。それも作為的なテンションが一切かからない状態で、です」
一枚目が釣れると、あとは簡単だった。
バラケをギュッと握って付ける。オカメをハリに刺す。落とし込み。三回タテサソイを入れた後、竿を送り込んでやると、穂先がクッと引き込まれる。魚を掬うとバラケはまだ残っているから、オカメだけ付け替えてそのまま次の打ち込み。一度のバラケで二枚釣れたこともある。
「ねっ、簡単でしょ、一度やってみてください。誰でも出来るし、ウキが見づらい時や、強風で流れが出ても大丈夫ですから、お勧めですよ」
見ている限りにおいては本当に簡単そうに見えた。阿川のすすめもあり、取材チームの一人が阿川の釣座にとって代わる。見よう見まねで、竿を上げる、前に送る。何か違う。違和感がある。というか、一連の動作に統一感・リズムがない。ウキトップの出る位置も一定しない。それでも、竿を前に送ってやると水中でツンと入った。入った途端、バシッと合わせてしまった。いつもの習性とは怖いもので、アタリがあれば合わせてしまう。乗るには乗ったが、阿川流ドボ宙としては、失格である。
「全然簡単なことじゃないですよ。バラケのタッチも、タテサソイも前送りも自分でやっててぎこちないなぁと思いますよ」
「そりゃさぁ、そんな簡単にやれれば阿川さんだって、長いことやってきた甲斐がないってもんだろう」
「いや、すぐに慣れますよ。ツンとくればビシッと合わせたくなるのは今でも同じですがね」
自動検量器では、阿川の釣果は、すでに池中でトップクラスに肉薄していた。

昼近くなると食いが極端に落ちる、というのはほとんどの池の共通点ではなかろうか。大きなバラケを打ち、サソイ方や前送りにさまざまな工夫を仕掛けても、羽生のヘラは興味半分になりつつある。
「ハリスを伸ばしてみます。下バリだけじゃなく上バリも伸ばします」
阿川はそう言うなり、下バリを90cm、上バリを15cmにそれぞれ長くした。
「使うハリスの長さの範囲は?」
「そうですね、上バリは10cmか15cmで固定です。下バリは60cmから90cmの範囲ですね」
今日は、周囲の状況から下バリ75cmで入った。食い渋り期に入ったと考え、阿川が使う最長の90cmまで伸ばす。
「それともうひとつ、クワセも替えてみます」といって取り出したのは、即席うどんホワイトだった。  

「即席うどんですか?」
「ええ、オカメはやはり盛期にこそ威力を発揮しますが、これからの季節を考えるとウドン系のクワセには勝るものはないと思います。その上、いまだオカメ禁止の釣り場も多いですから、この釣りはウドンでも充分対応できますよ、というところを見せておきたかったのです」
即席うどんの作り方に特徴がある。それは粉と水の分量なのだ。
*即席うどん(ホワイト)   20cc
* 水            20cc
というように、同分量でシェイクする。
「硬めに仕上げます。こうすることでダレがなく、いつまでもハリに残ります。前にも言いましたが、エサがハリに残っていることがこの釣りの絶対条件ですからね。それと、即席うどんはホワイト、イエローの2タイプありますが、比重の軽いホワイトがお勧めですね」
喋りながらも素早く作り、ポンプに入れて準備完了。するとどうだ。こんなにも違いが明確に出るのかと思うほど、前サワリが多くなってきた。竿操作は、オカメの時と同じであるが、うどんエサ特有のカラツンアタリもよく出ている。しかし、決して合わさず、その時も竿を前に送るだけである。食っていれば穂先が食い込むし、何もなければバラケの重さを感じた時点で、竿尻を元の位置に戻してやる。すなわち、即席うどんホワイトが軽いといってもオカメには勝てないから、水中での落下スピードはアップしたはず。だが、ハリスが長くなった分、そのスピードは相殺されると考えていい。その上、即席うどんはいつまでも、何回かのタテサソイにもハリに残っている。このことこそ、阿川流ドボ宙・うどん編を可能にした理論回路ではなかろうか。
「皆さん寄せ負けしないようにと大きなバラケを打ちますよね。その大きさでウキが潜ってしまいます。潜っては釣りにならないので、タテサソイでバラケエサをフルって落とします。ウキがまたバラケの重さで沈みはじめた途中のアタリを取っていく、というのがほとんどのチョウチンセットだと思うんですが、大バラケにうどんエサでは、まずこのアタリはカラでしょ。カラ、カラの連続でバラケを舞い上がらせ、ヘラも腹いっぱいこぼれ麩を食べていりゃ、ハリの付いたうどんなんか見向きもしませんよね」
阿川の解説を聞きながら、頷き、何度か思考回路が混線する話しに出くわした。
「いやぁ、カルチャーショックってこういうことですか?」
「そんなことないですよ。オヤジがドボンの仕掛けそのままに宙をやったら釣れたという経緯から始めただけのドボ宙ですよ、理屈や数字はあと付けにすぎません」
即席うどんを使った「ドボ宙」。これはこれからの季節、必ずや爆釣の気配を漂わせる釣方だとの確信を持った。阿川には、練り込まれた釣り理論に加味するように、練達の釣り師の風貌がそこかしこに見え隠れする。 


[阿川眞治 プロフィール]
・1957年生まれ 埼玉県川口市在住
・VARIVAS、GRAN、BASIC フィールドテスター
・日本へら鮒釣り研究会 企画部 副部長
・日本へら鮒釣り研究会 巽支部 支部長
・FBクラブ 執行部役員
各例会では常に上位に名を連ね、浅ダナからチョーチンまで、オールラウンドにこなすアングラー。

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