へら鮒情報局

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「道」は最初からあるわけではない。
人が、獣(けもの)が、長い年月をかけて往来し、踏みかため、道は出来上がっていく。

けもの道はやがて小道になり、人間の生活路となって、「道」と呼ばれるようになってきた。
だから道となるまでの過程は、「未知(みち)」であり、そこに至るまでの行程は「路(みち)」と呼ぶにふさわしいと考える。
ヘラエサ、特にマッシュエサに関して言えば、その「道」をつけた先人の発想知略に敬慕の念を抱かずにいられないので、非才を恐れず遠い昔のその路をノックしてみたい。
昭和40年代前半、雪印マッシュというものが世に出回った。外国(多分アメリカ)からの輸入品で、即席でじゃがいもコロッケが作れるというのが謳い文句であった。が、国内ではあまり売れ行きも芳しくなく、撤退も余儀なしとメーカーが決断しかけた頃くらいから、急に売上が伸びたという逸話が残っている。世のお母さん方が食卓を飾るために買うのではなく、色の黒いオッサン連中が釣りエサとして買い漁っていたのだそうだ。最初関東方面からブームは起こり、中京、関西にもすぐ飛び火した。ウドンに米ヌカの煎ったものを塗して釣っていた人間からすれば、なんとも高価で使いにくいエサであり、今で言うバラケエサ程度にしか使えなかった記憶が大きい。
随分、回り道をしているようだが、マッシュエサの大きな問題点のひとつがこの使いにくいエサという点にあるから、話しを続ける。
食用マッシュを水で溶くと、「パサパサ」になって、とてもハリに付けられるエサにはならない。使いにくい、というのはここだ。そこでコロッケを作る要領で、小麦粉をつなぎとして少し入れてやると、まとまり感が出て、なんとか丸められるようにはなった。ちなみに、小麦粉とメリケン粉は同じものであり、薄力粉と強力粉はグルテン量の違いを言う。パサパサをなくす試行錯誤を幾度となく繰り返した頃、そのグルテンという存在に目をつけて、マッシュエサは大きく変貌を遂げることになる。
始めに食用マッシュが登場する。マッシュだけではまとまらないから、つなぎ役として小麦粉やグルテンが出現した。これが当時の(昭和40年~50年前半)マッシュエサ事情だったと記憶しているし、それこそが先人達の「道」であったのだと認識したい。

ゴツイ仕掛け、ゴツイえさ!
巨ベラ師は、そのことを誇りにしている。
実際に伊達が使用しているハリとエサを写真に撮った。

右のハリは「グラン巨べら18号」(品種中最大)であるが、エサはまだそれより大きい。
巨ベラ18号が小さく見えるから不思議だ。
ハリもエサも大きいだけではない。それに力強さを兼ね備えているものを我々は「ゴツイ」と表現する。
狙い定めたフィールドも、そこに潜んでいるであろう超弩級のヘラも、釣り人のマインドも、仕掛けもエサも「ゴツイ」のだ。
仕掛けを記す。
竿   16尺
道糸  プロバージョンVブラウン2.5号
ハリス プロバージョンV 1.5号 35cm/45cm
ハリ  グラン巨べら 18号上下
ウキ  天ケ瀬(羽根6枚合わせ、ボディ7.5cm 竹足8.5cm ソリッドトップ30cm)

続いて、マッシュエサを作る。
*フレークマッシュ    960cc
*水           540cc
数分放置後、
*ピーク         120cc
を、マッシュに差し込むように絡めていく。
「わずかにピークを120cc入れるだけですが、これでエサの膨らみと開きがグンとよくなります」
それにしても、一度に作るフレークマッシュの分量が960ccと、こちらもスケールが桁違いである。
水を吸って膨らんだエサのエアーを抜くと、これくらいの分量になる。

これを一握り掴み、そのまま水中に一瞬浸けたのち、ギュッと揉んで再度エアーを抜いて使う。

エサ二個の大きさがこれだ。

それにしても、ゴツイえさであることに、空いた口が塞がらない。

奈良県室生(むろう)ダム。
昭和49年に完成した、灌漑、防災、取水用多目的ダム。完成当初からヘラブナが釣れることで脚光を浴び、昭和50年代から西日本へら鮒釣り連合会が定期的に放流事業を始めたことで一級釣り場の名を馳せるに至る。しかし、現在では放流量も寡少であり、逆に地べら化した大型が釣れるダム湖になったことで、野釣り師の開拓心を大いにかきたてる釣り場と変貌を遂げた。
マッシュエサの取材ということで、真っ先に頭を過ったのは「釣果ゼロ」という結果である。大型狙いにはいたし方ないことではあるが、できることならオデコは避けたい。そして当然の如く、BASICフィールドテスターの中で、マッシュのことなら伊達豊と名が挙がるなか、彼と釣り場選択の協議で、この室生ダムなら弩級(大型)を出して見せますとの力強いコメントをもらったのであった。
室生ダム右岸第一ワンド、通称「竜鎮ワンド」。
竜鎮渓谷へと続く奥深い谷の入口が、本日のポイント。
ここ降ります、と伊達に示された谷は、傾斜角30度の急勾配が続く、おそらく釣り人が作った踏み分け道である。道具いっぱいを手に、背に負って一歩一歩降りていく。
水面まで到達し、釣り台を据えたポイントは、このような所だ。

この時点で室生ダムはおよそ3mの減水中で、今もそれは続いているようだ。
エサを作り、タナ1本半にセットして最初のエサを投じたのは、6時を少し回った頃。期待に心わくわくする瞬間である。
大きなエサ、オモリを背負うウキ、ゴツイ針、それらの落下音が、室生ダムの深碧と相まって竜鎮ワンド内に谺(こだま)する。
今回、マッシュエサを解明するにあたり、伊達に二つの疑問点を投げかけた。
一点目は、「マッシュはパサパサ感が拭えず、最後には割れ落ちするのではないか?」ということ、二点目は「巨ベラ狙いには、なぜマッシュが有効的なのか?」ということであった。
巨べら狙いは、時間がたっぷりある。まさか、40cm上が入れ食いになることは千にひとつもないからだ。
「BASICのフレークマッシュは、マッシュポテト100%ですが、もちろん釣りエサとしての加工が施されています。水中での膨らみからヌケ、芯残りまで、充分単品で使えるのです」
というなり、伊達は実際に打っているエサをポンと水中に投げ入れた。それを目で追うと、水中で大きく膨らみ、エサ周辺から剥がれた粒子を下方向に拡散しながらゆっくり、ゆっくり沈んでいくのが確認された。
「エアーを抜いていますから、(比重が上がり)ゆっくりですが沈みます。エアーを抜かずに丸めただけだと、エサは浮きます」
これほど軽いエサなら、ここで写真が撮れるはずだ。
「伊達さん、今の写真をこの現場で撮りたいので、ピント合わせます。そこへもう一度エサ投げ入れてください。水槽実験ではない生写真のほうがいいでしょう」

エサが水中に入ってすぐ、大きく膨らんでいるのが分かる。

周辺から剥がれたマッシュ粒子が、下方に尾を引いて落下している。
そして注目すべきは、すでにエサの「芯」となりつつある表面に、なんら割れ落ちとなるべき亀裂の欠片もないことである。
この後、エサはゆっくりと沈んでいきカメラが追うことは無理であった。
「ね、これでフレークマッシュが割れ落ちしないということは、はっきりしたでしょ。エサは周辺からこぼれていって、ちゃんと芯が残っているでしょ」
伊達は、フレークマッシュ+ピーク(少量)のマッシュエサが、決して割れ落ちしないという確信を持っている。
伊達はいま、エサを打ちウキからは目を離さず話している。大きくなじんでいたウキトップが、ある位置までくるとスッとエサ落ち目盛まで上がってきた。
「でも、いまのウキの動きを見ていると、いかにも割れ落ちしました、というように感じますよね?」
「あれはね、割れ落ちしたんじゃないんです、エサの芯がハリのフトコロからずっこけたんですよ」
伊達からはこのような答えが返ってきた。
大きなエサを大きなハリ(グラン巨べら18号)に付ける時、当然エサの中心にハリがくるよう心掛ける。しかし水中で膨らみバラケていく時は必ずしも左右均等ではない。最後の芯残りした頃には、ハリ軸の中心からどちらかに片寄るため、芯がバランスを崩して転げ落ちるのだという。
「水槽で何度も試しましたが、エサを小さく付けると転げないのですが、エサ自体が大きいと、水中では揺さぶられますから転げ落ちますね」

「しかしね、このことも『巨べら狙いはマッシュに限る』に関わってくると思ってるんですよ」
何のサワリもないウキをジッと見ながら、「ギョッ」とする発言をボソリという伊達であった。

野釣りといえば、ジャミとの戦いであった記憶が長い。
しかし最近では、ジャミアタリで悩まされ、我慢し続けることは、まずない。
ブラックバス、ブルーギル、鵜の出現がその主たる原因であろうことは、言質を俟たない。
すでに、4時間近くエサを打ち続けているが、ウキは同じ動作を繰り返すのみだ。
伊達は、フレークマッシュ+ピークのエサをすでに三度作り替えている。
「至高の時を使ってみましょう」というなり、別ボウルでさっさと作ってしまう。
*至高の時     360cc
* 水       600cc
*ライト      120cc
という配合である。
「すでにボウル三杯分のエサを打っていますし、ヘラはともかく、ウキにはアタリを出さないジャミは寄っていると思います。至高の時はしっかり持つエサなので、ジャミアタリも出やすいのです」
フレークマッシュにはピークを合わせた。それは、マッシュエサが水中に入ってからの膨らみを最大限にするにはピークがうってつけという理由からだった。至高の時には、ライトで調整する。粉末マッシュである至高の時は、やや比重があるため、それを軽減することと開きを促進するためである。

至高の時を打ちはじめてすぐに、ウキに弱いながらもサワリらしき動きが出てきた。
至高の時は、フレークマッシュよりエサが持つから、ジャミもしつこく追いやすいのだ。
「全くウキが動かないことを思えば、ジャミでも何でもアタッたほうがいいでしょ」伊達も笑いながら、エサ打ちを続けた。
「基本的には、フレークマッシュ+ピークのエサから入りますが、アタリがあって乗らないときなどにも、至高の時を振りかけてエサ持ちをよくしてやることもひとつの手ですね」
そんな話しも交えながらも、ウキがスッ、スッーと入ると間髪いれずに合わせをくれたが、なんと釣れてきたのは尺近いブルーギルであった。
「持つエサにするとアタリは見れますが、今の感じでヘラは寄っていないということが分かりましたので、また、フレークマッシュに戻ります」
というなり、本日4回目のフレークマッシュエサを作り始める。
「徐々に第二問目の疑問点である、巨べら狙いはなぜマッシュなのか?という回答が見えてきたんじゃありませんか?」
「そうくると思ってました。ジャミが凄いからマッシュを使うというのはもう過去の話しなんですね」
マッシュエサは、水を充分に吸わせることが最たる重要ポイント。その時間も兼ねてしばらく竿を置いてもらうことにした。
「大型のヘラを釣るためには、小ベラやジャミをいかに相手にしないか、ということに尽きると考えています」
いきなり、伊達はこう切り出した。
「その点、マッシュ主体の集魚剤が入っていない、いわゆる白エサはジャミもそんなにしつこく追いかけてきません。ジャミが極端に減った最近では、麩エサを使うこともあるのですが、それだと先に小さいヘラが食ってしまうんです。なぜなら、麩エサだと食い頃の大きさにエサが芯残りするまでハリに残るからだと思います」
すなわち、先ほどのイラストでも分かるように、マッシュエサだと食い頃の芯になったエサはハリからずっこけてしまうから、その前のワンランク大きいままのエサを「バクッ」と食えるほどの大型しか相手にならないということなのだ。
ジャミは気にならないから、麩エサを打ちたいところだが、小ベラを釣ると大型は怯えて逃げてしまう。マッシュだと小ベラが食うタイミングの機会が少ない(全くないわけではない)ということなのだ。
「私もいわゆる尺半上(45cm以上)を過去何枚釣ったかしれませんが、大概はエサを打った途端ズバッとウキが入るケースがほとんどです。ということは、エサはまだ大きいままでしょうし、大型は警戒心を持ちつつ、待ち受けていて飛びついたと考えています」
弩級・超弩級のヘラブナを仕留めるには、小ベラをいかに釣らないか、ということであり、そのためには、エサが食い頃になったときにハリからずっこけてしまったほうがむしろいいのだ、という結論なのだ。
誤解を恐れずに続ける。
ここでいう「小ベラ」とは、狙っているフィールドからいえば尺半以下のことであり、通常概念の小さなヘラのことではない。ややオーバーだが、人の握り拳が入るほどの大きな口を持つ弩級のヘラを狙うには、その警戒心たるものを解いてやらねばならない。
打ち込んだエサを、いきなりエサを引ったくるように食うというのは、警戒心が強い証拠なのだ。
マッシュだと、ジャミもそうそうしつこくない。弩級より先に集まるであろう「小ベラ」も、食い頃になるまでエサを待てないから、マッシュのこぼれた粒子だけ追うようになり、そのわずか下には、警戒心を解き始めた、巨大な口、扇のような尾びれを持つ黒々とした超弩級のヘラが、マッシュの塊を食うタイミングを計っている。
巨ベラにはマッシュエサ、という伊達のイメージは、こうだったのだ。

奥深いワンドの音響装置は、あるいは一流のコンサートホールより優れているのかもしれない。名も知れぬ野鳥の声、木の葉のさんざめき、谷を渡るもがり笛の音、そして、ゴツイエサの落下音が、殷殷と響き渡る。
前人未到とまではいかないが、ポイントまでの道はどんなに険しくても自分で切り拓く。
アタリがなくても、超弩級を仕留めるまでは、エサを打ち続ける。
仕掛けは俺のが一番太いと自慢する。
こういったシチュエーションをも含めて、巨ベラ師の浪漫があるのだと思う。
すでに、エサを打ち始めて8時間が過ぎようとしている。その間に釣れたのはブルーギル1匹のみで、ジャミアタリらしきものが数回あっただけ。
「伊達さん、疲れたでしょ。長い間考えていた疑問点も解決できたしそろそろ竿置きませんか」
「いやぁこのエサタッチをね、どう伝えればいいのか悩んでるんです」
こちらも疲れてきたので、終了の催促をしたつもりだったが、伊達からは逆にまだまだこれからですよと叱咤されたようだった。
「フレークマッシュに充分水が行き届いてから、ひと掴み水に浸してギュッと握りますよね。その時は水はほとんど吸わせませんから硬さは変わらないのです。単にエアーを抜くのが目的です。これでタナまで持つのですが、もし持たないようなら二三度揉みを入れます。こんな説明でしか言えないのですよ、すみません」
ところで、まだ釣りは続けるのですか、と言いたかった言葉は飲み込んだ。伊達には竿を置くという気持ちの微塵もなさそうだ。
3時。
谷は深いだけに、高い木々の枝葉が日陰を作ってくれる。すると、湖水の色も濃緑色を増し、水深があるモルダバイトグリーン(深緑)の底には、超がつく弩級が棲んでいそうに想えてならない。
4時。
コンサートホールの演奏会は、殷殷と続いている。
その静寂(しじま)をいきなり竿鳴りが襲った。
いきなりの事で、痛恨ながらアタリは見逃したが、竿が大きく撓んでいる。
「きたっ?」
「・・・ん?デカイことは確かです」

呼吸が苦しく、言葉も詰まるようにしか出てこない。
カメラを向けるのに夢中で、足場を踏み外しそうになりながら、角度を変え何度かシャッターを切った時、「コイやぁ~、残念」と、今度は吸ってた息を思い切り吐きながら力を抜いた伊達であった。

後日談がある。
どうしても巨ベラを出せなかった伊達は自身の矜持に懸けて、この二日後、岡山県旭川ダムに飛んだ。この取材にも駆け付けてくれたフィールドテスター芝原明次も、またまた同行してくれるという熱情を伴っての釣行だった。
そして、筆者のもとに添付メールが届いたのは三日後の朝だった。
その添付写真がこれである。

野趣豊かな黒々とした地ベラは、46cmだったそうだ。
メールの本文には、「お手数かけますが、お願いします」とだけ書かれていた。
一発超弩級に懸ける漢(おとこ)の浪漫は、これ以上ない「至高の時」を保持し続ける。


[伊達豊 プロフィール]
・1948年生まれ 大阪府吹田市在住
・VARIVAS、GRAN、BASIC フィールドテスター
主にマッシュポテトを使用し、ダム湖を中心に大型野べらを日々追い求める。近畿、中国、四国の各地区を飛び回り「ダテちゃん」の愛称で親しまれる、釣り歴40年以上のキャリアを持つ生粋の野べら師。

-主な釣り場- 大杉ダム(兵庫県)/ 旭川ダム(岡山県)/ 鍔市ダム(兵庫県)/ 室生ダム(奈良県)

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