へら鮒情報局

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「起立!」
・・・・・・・・・・・?
「起立!」
・・・・・・・・・・・えっ?

先生に叱られた生徒が、背筋をピンと伸ばして直立不動する。
ウキが、その姿勢そっくりの動きをする時、「起立」の号令がかかる。

「こうなっちゃ、ダメなんですよねぇ。ピンポンされているわけだから、エサにネバリが出過ぎているよねぇ」
言うなり、すぐボウルに左手が伸びる。
宮澤は、昨日もここ幸手園で釣りをした。そして、今日の取材と明日を含め三連チャンの幸手園だという。
特に昨日は、幸手園愛好会の月例会だった。
54kgをカウントし、当然のごとくトップ釣果だった。
そもそも、旧幸手園から始まり、現在の野田幸手園に至るまで、関東方面の管理釣り場のリーダー的存在を堅持してきた愛好会には、常に驚くようなビッグネームが集まってきた。
名前を聞いただけで、顔を見ただけで、それこそ逃げ出したくなるような、日本を代表するメンバーが集まるのが、幸手園愛好会なのだ。
その愛好会で、宮澤は昨年、東の大関だった。
西の大関は小池忠教であり、以下、何人もの名手を敬服恭順させている。
そして、昨日の実録54kg、1位だったのだ。
幸手園を知り尽くした男の、それもチョーチン 両ダンゴの内臓を覗き見るチャンスが、ついにやってきた。
またとない機会、好機到来、千載一遇。宮澤広至のチョーチン両ダンゴが、今まさに幕が切って落とされようとしている。

いきなり、古今の11尺を継いだ。

「同じチョーチンでも、8尺と11尺では、ヘラの活性が違うと思います」
竿のコミを確かめながら、宮澤は解説してくれる。
8尺のタナにいるヘラは、1mにいるヘラと変わりないが、11尺だと底近くのヘラだから活性も型も違うのだと。
今日は竹桟橋の中央やや奥寄りに釣座を構えたが、この付近で水深4mだから、11尺で上層と深宙に棲み分けができている底近くのヘラを狙うのが得策なのだそうだ。
どの釣り場でも言えることは、上層部には大小取り混ぜ、働き過ぎてヨタ化した手ごわいガサベラが多い半面、底釣りをすると分かるように、体色もピンクがかったポッテリと肥えたヘラが釣れることが多くある。宮澤は、チョーチンを選択するなら、水深に合わせて竿を選んだほうが、ヘラも素直だから釣りも楽だと断言するのだ。

ちなみに、この日の仕掛は、
*竿    古今11尺
*道糸   スーパーへらピンク 1号
*ハリス  プロバージョンV 0.5号 60cm/75cm
*ハリ   上下グラン鈎 6号
*ウキ   鮒道人 3号(ボディ10cm)PCムク
というもので、いわゆる「ロンパリ 両ダンゴ」を見せてくれる。

その前に、まずニューロッド「古今」について解説を求めた。
「デザインが洗練されていますよね。そして値段に似合わぬ細身ながらの引ける竿というのが一番の売りじゃないでしょうか」という答えが返ってきた。
宮澤は、ウキも作る。そして、竿掛けも自作する。なんと今日は、古今のプルシアンブルーに合わせるかのような竿掛けも準備してきた。センスが交錯する仕上がりをご覧いただきたい。

「最近、道糸にスーパーへらピンクを使う方が増えていますが?」という問いかけには、「通称ピンクと呼んでいますが、この素材はVLS低伸度ナイロンが使われていて、フロロに劣らない伸びのなさが大きな特徴ですし、また安価なのも嬉しいですね」

宮澤は笑うと目尻に大きな皺が寄る。ある種、憧れに近いその皺は、そこだけ日焼けせず白く、釣りの年輪だけ深く刻み込まれている。皺の深さは、釣り洞察力の深さであり、釣りに懸けた生き様の証明だ。

さあ、エサ作りにかかろう。
まず、取り出したのはご存じ単品爆釣Aである。
「Aなしでは、ダンゴは成立しません」
と、宮澤は言い切る。

*単品爆釣A  240cc
*水      120cc
*単品爆釣A  120cc
*単品爆釣B  120cc
という配合で、サッと作ってしまった。

あまりにも素早かったので、フィルムを巻き戻してみる。
まず、Aをカップ2杯(120ccカップ)ボウルに入れる。続いて、水を1カップ入れドロドロ状態にする。
「これが食わせです。Aに先に水を吸わすことで、ヘラはこれを食います」
通常、Aを先に水で溶くことはなく、宮澤流と言っていい手法だが、こうすることで、ダンゴの芯を作る、すなわち食わせエサの核を作るのだ。
続いて、AとBを1カップずつ入れてから、今度は大きく絡めるようにかき混ぜる。決して練り込まず、あくまで均一になるよう絡めるだけ。あるいは、塗す(まぶす)という表現が正しいかもしれない。
イメージをイラスト化すると、こんな感じになると考えられる。

語彙の無さを痛感させられるが、例えるとすれば、エビフライを揚げる時、エビの身に衣(ころも)を塗す要領だろう。エビの身が「A」で、衣があとから混ぜた「A」と「B」だ。勿論、食うのはエビの身本体で、衣は粉飾、すなわち寄せバラケと考える。エビの身(A)が、芯となるのだ。
単品爆釣Aは、ダンゴに絶対不可欠な芯が作れるエサである。それも、押し練りしたり、ボウルの底で練り込んだりすることなく、サッと水で溶くだけですぐに使える秀逸した特性をもっている。その上に、宮澤のようにA単品240ccを水120ccで先に溶いてドロドロ状態にしてやることで、ダンゴエサの核・コア・芯を形成することも出来得るのだ。
ちなみに、A単品480ccに水120ccを入れ、今度は雑にかき混ぜるだけにすると、水を吸った部分とほとんど水を吸わなかった部分が入り混じり、食わせとバラケが同調したダンゴが出来上がる。上記のエサ配合でA120ccをあとから入れたのは、この作用の応用と考えていい。
しかし正直に述べると、Aを先にドロドロにする手法は、今回初めて見た。
見て、驚いた。
驚いて、なるほどと、手を打った。
その手で、すぐに自分も真似て作ってみた。
作って、確認、納得したので、ここに声を大にして披歴する。

クルッとエサを丸めてハリ付けする。
二個。
そして、片方のハリスを持ち、投餌する。
この動作を見ると、その人の力量は歴然と判明する。
時代劇風だと、「おぬし、やるな!」であり、将棋界では、一手指しただけで「まいりました」の境地であろう。
「ハリスは二本一度に持たず、必ず片方だけ持って打ち込むようにしています」と、宮澤の解説通り、ハリスの絡みはこの動作でかなりな部分解消される。
打ち始めのダンゴの大きさはこうだ。

吸水しきっていない麩が、疎らにあるのがお分かりいただけると思う。
次に、ウキのエサ落ち目盛を確認する。

このように、7節が水面上に出ている。
先ほどのエサを付けると、5節なじんでしまった。

「必ず、このようになじみを入れるようにします。11尺のタナですから、上の魚はいらないですよ」
再度述べるが、エサは作ったままの状態をハリ付けするために軽く丸めただけである。ラフ付けに近いうえ、深いタナ、ロングハリスにもかかわらず、しっかりエサは持っている。
エサを深く入れながら、サワリを出そうと投餌作業が続くが、今日の幸手園は水が大きく動いていて、エサが流されているようだ。昨晩、関東地方には大風が吹き荒れた。いまなお、その余波があり、前後左右にウネリのような水流がある。水面の浮んだ泡づけが、そのまま左右に行ったり、戻ってきたりしている。
「ウキが流されるだけでなく、エサもスポット的に溜まりませんから、寄りは悪いですね」
と、言いながら、手を水に浸し、ボウルのエサをかき混ぜる動作を繰り返す。

「練るのではなく、こうしてエサの乾きを戻してやることによって、締まったエサをほぐしてやるのです」
さりげない行動にも、ダンゴを丁寧に扱う、宮澤のテクが垣間見える。
ウキがつっかえるようになってきた。
ヘラが、タナに寄りだしたようだ。
エサ落ち目盛付近で一旦止まり、スッと入るが合わせずにいると、ズン、ズンと入った。
ここで、素早く合わせ、第一号が釣れる。深いタナにいる、よく肥えたヘラだ。

「早いアタリはまず見送ります。エサを必ずタナまで入れてからのアタリ返しに絞り込んでいきます。そのほうが、型もいいですし、タナがボケずに持続するんですよ」
そして、釣れ出してからのエサを見せていただくと、打ち始めのエサとは違いまとまり感があるのが分かる。

ウキのつっかえが、激しくなってきた。
起立!の号令がかかる。これは、エサにネバリが出てきた証拠で、エサがお手玉・ピンポンされていますよというサイン。
ここで素早く、別ボウルに単品爆釣A240cc + 水120cc + 単品爆釣A120cc + 単品爆釣B120ccという最初通りのエサを作ると、まだ残っているはじめのエサに合体した。
あまり経験したことのないやり方だけに、その理由をたずねると、はじめに残っているエサが今度はダンゴの芯になり、再度作り直したエサがボソを出してくれるとの返答であった。
できるだけ練り込まないよう作ったエサだが、残り少なくなる頃には、時間経過によるところのネバリが出てくる。ウキが「起立!」状態になったり、カラツンや、ロングハリスの絡みといったサインでそれは知ることができる。宮澤は、その残りエサはそのままにしておき、別に新しいエサを作ってその残りエサと合体するのだという。すると、残りエサが今度はダンゴの芯になり、新しいエサがその周りをボソでコーティングしてくれるという。
よくもまぁ、これだけ次々と秘技、奥の手と呼んでいい引き出しを惜しげもなく開けてくれるものだと感服した。
これだけのエッセンスを聞き流しているだけではあまりに勿体ないので、最後にレジュメ調に纏めてみたい。
エサがリフレッシュされると、ウキは素直なもので、立ってからなじむまでの所作がスムーズになり、ハリスが張りかけるタイミングで食いアタリが継続するようになる。
写真も撮れた。
秘技も聞かせていただいた。
何より釣れた。
もう、取材を終えていいかと思ったほどだったが、「最近の傾向を探ってみましょうよ」という宮澤の言葉に、取材ノートの新しいページをもう一枚めくった。

「今日は幸手園を主に考えてやっていますが、幸手だけではなくどの池でも、最近は軽いエサに反応がいいように思うので、一度BASICの軽いエサを作ってやってみましょう」
宮澤からこんなうれしい提案があった。
早速作ったエサレシピはこうだ。
*単品爆釣A  240cc
*水      140cc
*グルダンゴ  120cc
*単品爆釣B   120cc
というように、大きく変わったところは、「グルダンゴ」が加わった点にある。

「グルダンゴは、Aで作った芯に絡み、芯をタナまで届けてくれます。そして、なによりエサを軽くしてくれます。Aでダンゴの芯、グルダンゴがダンゴそのものを軽くするとともに、その芯を守り、Bで開かせるというイメージです」
宮澤のコンセプトは、使用する品種はなるべく少なくして、それぞれの特徴を最大限に活かすというところにあるよう見受けられた。
あれも、これも混ぜてしまってからでは、何がヘラに歓迎され、何が邪魔をしているのかということが非常に分かりづらいと思う。その点、上記のように特徴がはっきりと区別されている三種類だと、釣り込みながら、あの効果を出してくれるエサが欲しい、足りないといった追い足し分が分かりやすいのである。
この軽いエサ(といっても、手で持った程度で比較できないが)にすると、ヘラには充分分かるのだろうか、受けからなじみまでのプロセスが、理想に近い形として現れてきた。
ウキの目盛は11節。そこから4節なじんだ赤がエサ落ち目盛。ウキがトップとの付け根で立ち上がってから、4節まではスムーズになじみ、エサ落ち目盛の赤でワンポーズある。そこからつっかえ、つっかえしながらなじみが入っていき、最後にドスン!と飛び込む動き。
チョーチン、ロングハリス両ダンゴの理想形と言っていい。

付け根でウキが立った時には、オモリは3時から6時の方向に沈みつつあるが、エサはもっと上にある。ここで「起立」状態とか、受けが強いということはウワズリのサインが強く出ているのであり、エサが揉まれながら3時から垂直に垂れ下がる6時までのクォーター(1/4)が勝負時といえるのだ。グルダンゴを120cc加えたことで、その軽さがハリスの長さ、ハリの大きさ、ウキの負荷とマッチングしたということだろう。
「やはり、軽いエサのほうが反応いいですね。しかし、これではいつウワズリが出てもおかしくありません。釣り場の混雑度や、天候にも大きく左右されますからね。そんな時にはね、ベーシックをパラッと加えてやるのです。ベーシックって僅かですが重さがあるでしょ。今度は、その重さくらいが抜群の効果を見せるんですよ」
なるほど、軽系のエサには、ベーシック程度の比重がいいという、これもまた名言だろう。
もう満腹感一杯で、宮澤さん、取材終えましょうよと声を掛けようとして、ハッと気付いたことがある。
今日一日、ロングハリスを一度も交換していなかったはずだ。普通、ロングハリスだと、一日に数回は絡んでしまって交換を余儀なくされるものだが、宮澤は朝からの仕掛そのままだったことに気付いたのだ。
「ハリスが絡むのは、エサにネバリが出ていて、お手玉状態になっているから」という宮澤の解説が、ここで立証された場面を目撃したのだった。

保存版として、宮澤の「奥義」を箇条書きにする。
1、水深に合わせて竿を選ぶ。
1、単品爆釣Aに先に水を吸わせることで、ダンゴの芯を作る。
1、残りエサに、新しく作ったエサを合わせることで、ダンゴの芯が作れるから、新しいエサを作るタイミングを逃すな。
1、エサは時折、手水で乾き分を補ってやることで、リフレッシュする。
1、エサ打ち時は、片方のハリスを掴む。
1、ハリスが絡むのは、エサにネバリが出た証拠だから、手直しを。

解説は、簡単明瞭にかぎる。
宮澤本人も、簡単に解説してくれる。
しかも、その簡単解説には、値千金の本質が隠されていて、熟達の釣り人が耳にしても「おっ!」と傾聴するところがある。
宮澤は、簡単に釣って幸手園愛好会を征している。


[宮澤広至 プロフィール]
・1955年生まれ 千葉県野田市在住
・VARIVAS、GRAN、BASIC フィールドテスター
・野田幸手園愛好会
・魚神界
・FBクラブ 所属
チョーチン両ダンゴを得意とする名手。所属の幸手園愛好会では幹事長を務めながら、常に上位に名を連ねるなどその実力は折り紙付き。

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