へら鮒情報局

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Build(ビルド)という単語の直訳は、「組み立てる」という意味である。だから、ビルディングは、組み立てられた物、建造物ということになる。へら鮒釣りでよく言われることとして、目先の魚は釣るな、一日を通して尻上がりに良くなる釣りを目指せ、という教えがある。また、単発の競技会で優勝するより、年間を通しての我がクラブで好成績を残すほうが価値がある、という根強い意見があるのも事実だ。いずれにせよ、腰を据え、基礎を堅め、ひとつ、またひとつと組み立てられた結果が、高層ビル・高釣果に繋がることを目指せと教示しているのだろう。

伊藤宏二、45歳。
黒光りした顔色は、名手の勲章をより一層引き立たせている。
今回のテーマは「ペレ宙」、フィールドは茨城県の友部湯崎湖である。空には厚く黒い雲が流れている。天候が崩れる前に取材を済まそうと挨拶もそこそこに4号桟橋中央の事務所向きに釣座を構えた。
「現在、FBクラブ、Y21クラブ、日研巽支部に在籍しています。年間優勝を目指して、毎回が例会のための釣りですから、それこそ毎月大変です」。万力を締めながら、所属会での戦績を語ってくれる。強豪ひしめく3クラブの中で、常に上位をキープしていきながら、VARIVAS・GRAN CUP へらOVER40トーナメント 2011 総合優勝、2012 総合第三位などの戦績を残すのは、並大抵のことではないだろう。毎月が大変!これこそが、伊藤の強さの秘密と推察する。

伊藤の選んだタックルは、12尺の竿に、道糸「スーパーへら ピンク1号」、ハリス「プロバージョンV 0.5号 40cm/50cm」、ハリ「上下ともグラン鈎6号」、ウキ「杉山作ボディ 8cm、パイプトップ全9節」というものである。
ラインとハリについて、伊藤に意見を求めた。
「まず道糸は、ピンク色なので、通称ピンクと呼んでいます。視認性抜群で沈みが良い、低伸度でチョーチンや底釣りにも最適。その上、低価格と三拍子ならぬ四拍子揃ったVARIVASの新製品です。ハリは形状が好きで年間を通してグラン鈎を使用していますが、厳寒期のセット釣りでは自重の軽いグルテン鈎の2号、3号を中心として下鈎に使用しています。ハリ先の鋭さについては、今さら私が言うことでもありませんしね。」           

伊藤の説明は、明瞭端的で受け答えに澱みがなく、頭の良さが伺える。

 

伊藤の釣りを支える要となるウキは、「杉山作」。ウキケースからボディー8cmのパイプトップのウキを手にとり、この位置をエサ落ち目盛にします、と説明してくれる。

 

バックの中から取り出したエサは、「ペレ宙」「ライト」「ピーク」「しめかっつけ」の4種類。
ペレ宙360cc + ライト240cc + ピーク120cc + 水180cc + しめかっつけ120ccというブレンドを選択した伊藤。そのブレンドコンセプトは、いわゆる「ミドルペレ宙」。「軽比重できめ細かい硬めの麩がネバリを抑えてくれるライト」、「ボソタッチに仕上がり軽比重で優れたバラケ性を持つピーク」、最後に「超軽量、適度なネバリでエサをまとめ、芯を作ってくれるしめかっつけ」。これを基本としているのが、伊藤流ミドルペレ宙だ。ライト・ピークともに、ペレットとの相性が抜群に良い白麩エサなのだが、その比重とバラケ性はもとより、麩の粒子の微妙な差までを利用し自分のタッチを作り出していく。
エサにしっかりと水を吸水させている間に、伊藤はペレ宙という釣り方のエサを次のように語ってくれた。
「基本的な考え方は、ペレ宙というエサに入っているペレット量を濃くするか薄くするかということです。比重が軽い方が良ければブレンドする白麩エサの分量を多くしていけば良いし、比重が重たい方が良ければブレンドするペレ宙の分量を多くするか、バラケルペレットのような粉末ペレットを適量ブレンドしてネバリと比重の調整をしていきます。また、バラケ性についてもエサがバラケた方が良ければライトやピークで調整していきますし、軟らかめの方が良ければ手水で調整していきます。その段階でエサが持たなくなってきた時は、しめかっつけで調整するか、魔法の粉などの粘着剤の力を借りて持たせていきます」。なんともレアな情報をいともあっさりと明かしてくれた伊藤であった。

7時すぎ、すべての準備が整ってエサ打ち開始、タナは一本半。
最初はこのような感じでハリにエサ付けする。

 

第一投は、水面に出ている7節のトップが水中に没してしまう。すぐに、エサ切り。また、次のエサもすんなりとなじんでしまう。このような状態が数投続いた頃、何席か離れて釣っている人の前では盛んにもじりが出るようになってきた。しかし、そのもじりをよく見ると、いわゆるヌケルという感じではなく、トランポリンで跳ねているような違和感あるもじり方なのだ。先日来の大雨の影響だろうか、池の水は大きく入れ替わっていて、水質にも変化が生じていると思われる。
「アタらないですよねぇ」と、呟きながら、伊藤はもうひとつのボウルに次のエサを用意する。最初に作ったエサがまだ1/3程度残っている段階で、次のエサを準備しておく。こうすることで、最初のエサがなくなる頃には、次のエサにも充分水分が浸透していて使い頃になっているうえに、エサが素早くリフレッシュされるという、両刃の利点がある。

エサボウルがふたつ並ぶ。何でもないことのようにも思われるが、実は奥深い「手」なのだ。120ccカップ4杯に水120ccカップ1杯の割合でエサを作ると、およそ40分から1時間以内に打ち切ってしまうから、時間経過によるエサのネバリや表面乾燥といった変化を気にしなくてもいいし、新しい作りたてのエサが次々に打てるから、魚への反応も抜群なのである。同じブレンドでも良いし、ブレンドの品種と比率を替えてみるということも可能なのだ。

ようやくサワリが出始めた。すると、一気に水面がザラつき出すほどの寄りだ。
ここから、伊藤の試行錯誤が始まる。まず、エサの大小で変化をつける。

左が今まで打ってきたエサの大きさと形状で、右がアタリが出始めてからのものだ。
ただ、これでもとりとめのないウキの動きに、ハリスを30cm/40cmに縮めた。アタリは継続してあり、何枚かは釣れているのだが、伊藤自身が納得していない様子が伺える。伊藤は「エサの種類を替えてみます」と言うや否やササッと違うブレンドでエサを作り始めた。

ペレ宙240cc + グルダンゴ240cc + 水150cc + オールマイティ120cc

 

「エサの大小だけでなく、打ち始めは角をつけていたのを丁寧に丸めてハリ付けするようにしました。ハリスも10cm縮めましたが、それでもエサが入りにくい状況です。エサを練り込んで入れるとピンポンされるだけですので、ここはグルダンゴの麩のもつネバリを利用したいと考えたんです。最近、重いペレ宙はもうひとつパッとしませんが、グルダンゴ・オールマイティなら軽く仕上がりますしね」。
通常なら、当初の定番ともいうべき、ライト・ピークで作ったエサに手もみを加えて持たすところを、人工的なネバリのあるエサでは、タナまで持っても食いには至らないと断言する。それよりも、今日のようにガサベラがワッと寄る状態では、グルダンゴの自然のネバリが役に立つはずだとも。
エサの大小にまた変化が現れた。

左がアタリが活発になった時に打っていたエサで、右が決まりエサ。
それでも、軽く丸めたエサに上からハリを刺し、チモトを押さえるだけなのだ。ワッと押し寄せたへら鮒に揉まれに揉まれてようやくウキが立ち、今度は受けというよりさわりにさわられて渋々とナジミ始めたウキが力強くツン!と水中に。

(筆者は、心の中で右手が動いていたのだが)伊藤はアワセない。トップが一節水面に顔を出す。ここでも力強いアタリがあったが、伊藤はまだアワセせない。
ウキのトップが大きく上下に揺れ動き、最後に小さいが鋭くチクッと入った瞬間に伊藤の穂先が水を切り裂いた。                 

「このパターンが、ペレ宙の決まり手ですね。早いアタリを取っていくとガサベラばかりですし、なにより釣れ続くことはないですね。」       

ウキは揉まれ、散発的な釣れ方だったので、一時はどうなることやらとの懸念もまさに杞憂、カラ振りなしの連発モードに入る。
堅実に!そして冷静に!確実に!これを堅守していく伊藤宏二スタイルの本領発揮だ。

① 必ずエサをタナまで入れる。
② そこからのアタリ返しを取っていく。
③ 早いアタリを見送り、ハリスが張ってからの力強いアタリに絞っていく。

一連の流れを見て、一般的に釣り人はこれを「美しい釣り」「綺麗な釣り」と評するが、美しい・綺麗という表現そのものが曖昧模糊、誤謬だと考える。伊藤は、美しい綺麗な釣りを目指しているのではない。タナまでエサを入れて、アタリ返しを取っていくのは、基盤を堅め、尻上がりに良くなるようにロングスパンで捉えているからに他ならない。

これぞまさに「組み立て(=ビルド)」の結果。
だから、私は伊藤宏二を「ペレ宙ビルダー」と呼ぶ。少し大げさに聞こえるが、これだけ竿が撓むシーンを見せつけられれば、誰もが納得するだろう。

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